見られなかったAVの話

ちょっと前から、「アダルトビデオへの出演を拒んだ女性が、違約金を請求される」というニュースが、ネットで見られるようになりました。おもに、性被害に遭った女性を支援する団体から、そのような情報がリリースされています。


最近話題になったのが、こちら。
被害続く・AV出演を断った20歳の女性に芸能プロダクションが2460万円の違約金支払いを求め提訴。(伊藤和子) - 個人 - Yahoo!ニュース 被害続く・AV出演を断った20歳の女性に芸能プロダクションが2460万円の違約金支払いを求め提訴。(伊藤和子) - 個人 - Yahoo!ニュース
ここでは、高校生のときにスカウトされ芸能プロダクションと契約した女性が、ギャラももらえないまま、断ると違約金が発生すると脅されて着エロの仕事をさせられ、20歳になるとAVの撮影を強要され、1本だけ撮影したがとてもつらかったので契約解除を申し出たところ、プロダクションから2400万円の違約金を請求する訴訟を起こされた、というとても悪質な事例が紹介されています。


それに対し、AV業界に近しいライターは、このような反論をしていました。
AVや風俗業界で人身売買はあるのか?告発系記事への反論【前編】 AVや風俗業界で人身売買はあるのか?告発系記事への反論【前編】
AVや風俗業界で人身売買はあるのか?告発系記事への反論【後編】 AVや風俗業界で人身売買はあるのか?告発系記事への反論【後編】


ライターの荒井禎雄氏は、「いきなり複数の男性と性行為をさせられたというが、デビュー作からそのようなハードプレイをさせるとは思えない」「あと9本の契約が残っている、と言われたというが、メーカーと複数本の専属契約をするほど期待されているモデルが、そんな扱いを受けるはずがない」など、訴えている内容にはリアリティがないと断じています。


ぼくもね、正直いって、ここで持ち出される「9本の契約」なんてのはきっとインチキなプロダクションがデタラメを言ってるだけで、そんなに有名なメーカーとかが絡んでるような事案じゃないだろう、とタカをくくってたんですよ。いまどきそんなひどい話はないだろう、と。鈴木涼美の『「AV女優」の社会学』でも、そういうケースは考えにくいと書いてあったし。


しかし、この訴訟には9月9日に判決が出て、原告(プロダクション)の請求は棄却されました。当然の判決です。
被告となった女性の代理人として、この訴訟に関わってきた伊藤和子弁護士による、報告エントリがこちら。


AV違約金訴訟・意に反して出演する義務ないとし請求棄却。被害から逃れる・被害をなくすため今必要なこと(伊藤和子) - 個人 - Yahoo!ニュース AV違約金訴訟・意に反して出演する義務ないとし請求棄却。被害から逃れる・被害をなくすため今必要なこと(伊藤和子) - 個人 - Yahoo!ニュース
ここでは、プロダクションが請求してきた金額の内訳についても明かされています。

原告が求めてきた金額は、2460万円。その根拠は
1) 被告が拒絶した9作品について、1作品220万円の本来得られたであろう利益 
合計1980万円
※プロダクションは制作会社との間で1作品300万円で女性を出演させる契約を、女性に無断で締結、そのうち、80万円だけを女性にわたし、残りの220万円は自分が取るともくろんでいたという。女性の拒絶により、その利益が得られなくなったとして請求
2) 撮影キャンセルに伴う損害         80万円
3) 売り込みのために要した経費        400万円

これね、1本につきメーカーから払われるのが300万、うち女優の取り分が80万ってのは、いまのアダルトビデオ業界では最高ランクのギャラなんですよ。
このギャラからわかるのは、女性がいわゆる「単体女優」としてメーカーと専属契約を結ぶ、大々的に売り出されるスター候補だったってことです。業界のすみっこに生息するゴロツキが、名も無い企画女優を騙して小汚くインチキ商売をやるような話ではなかった、ってことです。


荒井氏は「デビュー作から複数の男と絡むことはない」と書いてますけど、AVって基本的に1本を1日で撮影するものなんですよ。で、いまのAVはだいたい1本で3絡みぐらいありますから、一度の相手は一人ずつでも、結果的に複数の男性と性行為をすることにはなるわけです。あと、被告女性の手記によれば「性器が痛かった」とのことなので、きっと潮吹きをやらされたんだろうなぁ。




でね。



伊藤弁護士も危惧してるんですけど、この女性がいちばん嫌がるのは、自分が出たビデオとか芸名とかを詮索されることじゃないですか。




でもね、ぼくはすぐ誰のことかわかっちゃったんですよ。



「グラビアアイドルとして露出度の高いDVDを何枚か出したのち、2014年に某大手メーカー専属でAVデビューしたものの、デビュー作の販売が中止された」という女優さんを、ぼくは瞬時に思い出したんですよね。名前は挙げませんけど、当時話題になったパッケージなどを見るかぎりではたいへんにぼくの好みだったので、「残念だな」と印象に残っていたんです。ちょうどそのメーカーでは新人のデビュー作が販売中止になる事例が相次いだので、「あそこのコンプライアンスはどうなってるんだ、担当部署には例の『女子社員』でも配属してるのか」と呆れたのをおぼえています。



荒井氏は、この判決を受けてさらに記事を書いています。
【AV出演拒否】AV業界を食い物にする新アウトロー"海外配信系"の正体 【AV出演拒否】AV業界を食い物にする新アウトロー"海外配信系"の正体

でもこれは明らかな論理のすり替えで、そんな海外配信だなんだというアウトローの話ではなく、AV業界を代表するような大手メーカーで専属デビューした、スター候補の話ですよ。
そんな、業界トップクラスの領域でも、こんな卑劣なやり口が存在しているんですねぇ。とても切断処理できるものではありません。被害者ぶってどうするんだ。


そして、このプロダクションも、実際に訴えれば敗けることぐらい最初からわかってたと思うんですよ。
それでも訴えたのは、この訴訟自体が被告女性への嫌がらせとなる、SLAPP訴訟だからでしょう。ぼくも、この訴訟を耳にして「あの子だ」と思い出しちゃったぐらいだし、こうやって話題にすること自体が目的だったのだろうと思います。


これで、原告の請求は棄却されましたけど、彼女の被害はなにも回復してないわけですからね。慰謝料をもらえるわけですらないし、「勝訴」とは言い切れない気がするなぁ。そして、この女性のビデオを見たがっていたオレには、この件でああだこうだ言う権利なんか絶対ないんだよなぁ。



今回の訴訟で被告となった女性は、PAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会)の支援を受けて立ち上がったそうですが、最近のAV発売中止が相次いだのも、もしかしたらPAPSの支援によるものかもしれないなぁ。AVファンとして、せめてこの人たちの活動を悪く言ったりしないことを肝に銘じよう。


ちなみに今月に入ってから、うちのブログのアフィリエイトを通じて、また『春原未来のすべて』が1枚売れておりました。

去年の11月に初めて取り上げてから、これで12枚目の売り上げとなります。本気で「AVをやる」と決めた女性のすごさと美しさを、どうぞご堪能ください。