Light My Fire

※今日はアダルトビデオの話です。





いま発売中の「SPA!」では、リリー・フランキーみうらじゅんの連載「グラビアン魂」に峰なゆかが緊縛姿で登場し、その峰なゆかは『アラサーちゃん』の連載ページで、『「AV女優」の社会学』著者の鈴木涼美と対談しているという、こじらせ系AVファンにとってはおいしい内容になっています。


リリー&みうらコンビは「好きだったAV女優がほかの分野でブレイクすると、旧作の味わいが増す」というようなことを言っていて、峰なゆかの色気を賞賛しているのですが、ぼくの中ではいま空前のAV旧作ブームが来ていて、鈴木涼美が学生時代にやっていたAV女優「佐藤るり」のDVDを、中古AVショップを何軒もはしごしては漁盤するというのが、休日の楽しみになっています。もう自分でも完全にどうかしていると思うのですが、まぁみうら&リリーの巨匠コンビもそう言ってることですし、大目に見てほしいといいますか。


んで、佐藤るりが2004年にデビューしてから、2007年に引退するまでの間に出たビデオを何枚か発掘して、鑑賞したんですが、鈴木涼美の著書『「AV女優」の社会学』や、それをめぐる反応の中で書かれたこと、明らかにされたことなどを考慮しながら見ると、味わいがまた増すんですなぁ。

『「AV女優」の社会学』は、AV女優としてデビューした女性がいかにしてその過剰な自己紹介を身につけていくか、という過程が大きな見どころになっていますが、佐藤るりのデビュー作『BOMBER』の冒頭インタビューを見ると、すでに彼女が確固たるキャラクター性を選択して身につけていることがわかります。
BOMBER!!佐藤るり [DVD]

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新人の単体AV女優は、多くの場合はアイドル然とした清楚な服装でまず登場するのですが、佐藤るりは豊かなバストが半分ぐらい出ているキャミソール一枚で、明るく快活で積極的なキャラクターを打ち出しています。髪の毛も茶髪で、見た目にはすごく頭の軽そうな子になっています。「自分の身体でいちばん好きなところは」という監督の質問には「おっぱい」と即答し、自分のバストについて「張りがあって、大きくて、柔らかすぎなくて、乳首もきれいで、非の打ちどころがない」と絶賛しています。
(※たしかにオレも、今まで20年以上アダルトビデオを見続けて、おそらく延べ1000人ぐらいの巨乳を観賞してきたが、その中でもトップクラスだと評価している)
「じゃあ見せて」という要求には、まったく恥じらう様子もなくキャミソールとブラジャーを脱いでみせ、「私のおっぱいをみんなに見てほしかったので、ビデオで見せられてうれしいです」と笑顔で言ってのけます。
性体験についての質問に対しても、自分はすごくエッチな子だと答え、「自分は海が好きで、夏休みに6回海へ行ったんですけど、6回とも海の家のお兄さん(みんな違う人)とエッチしました」とあっけらかんと答えるので、清楚系が好きな人からすれば辟易するかもしれませんが、ぼくの場合は「こういうのがいいんだよこういうのが」という気持ちになります。


こういった、虚構性の強い「自分の意志でAV女優になった、エッチな女の子」というキャラクターを打ち出す語り口を、聡明な彼女はデビュー作にして身につけていたわけですが、そのいっぽうで、「特技は何ですか」という質問に「勉強は何でもできて、昔から成績はよかったです。ロンドンに住んでたから英語もしゃべれます」とも答えています。外見からはとてもそう見えないし、監督から「じゃあ何かしゃべって」と言われて「ナイストゥミーチュー」とだけ答えたりしていて、ホントかよと思わされます。


しかし、実は当時の彼女は慶応大学の現役学生で、小学生のころにロンドンで生活していた帰国子女でもある、という事実が最近になって明らかになりました。
(当時から一部では「実は慶応」と囁かれてはいたようであり、大学のゼミでは彼女がAV女優だとみな知っていたという。開けっぴろげな性格のようだ)


演出された語りの中に、サラリと本当のことも混ぜ込んでいるんですね。



週刊文春に「日経記者はAV女優だった!」と書き立てられた鈴木涼美は、LITERAへの寄稿文でこう書いています。

『「AV女優」の社会学』の著者は、「偏見を鑑みて」などという言い訳の裏で、どこかで自分の著作を読む偉いオジサンたちを「巨乳で馬鹿っぽいAV女優が書いたって知ったらどんな顔するの?」と嘲笑するような気持ちは持っていなかったと言えるだろうか。

デビュー作における語りにも「巨乳で馬鹿っぽいAV女優だけど、実は高学歴とわかったらみんなびっくりするんじゃないの?」とでもいうような、後年に書いたのと同じミスティフィカシオンを感じないでもないですね。


デビューからしばらくは、単体女優として美少女路線を歩んでいた佐藤るりですが、単体契約から企画女優へ移行してからはハードな内容が増えていきます。


自分の奔放な性生活を語るトークエスカレートしていき、「秋葉原のAVショップで、自分の作品を手に取った男の子に声をかけ、そのままホテルに行った」なんて話もしていました。

この話にリアリティを感じる人はいないと思いますが、90年代に活躍したAVクイーンのひとりである憂木瞳(「ギルガメッシュないと」では裸エプロンを得意としていた)には“ファン喰い”の悪癖があり、これに苦慮したプロダクションが、彼女の趣味と実益を兼ねたファン参加型男優オーディションビデオ『憂木瞳としてみませんか?』を制作したという逸話も、AVファンの間では語り継がれています。

花びらの色づく頃 憂木瞳写真集

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そういった、立ち位置の変化が女優の内面にもたらす変容については『「AV女優」の社会学』にくわしく書いてありますが、彼女が実際に経験した現場を踏まえると、さらに味わいが増します。

※動画ダウンロードはこちら→燃えるゴミ女 凌辱発火点 佐藤るり - アダルトビデオ動画 - FANZA動画(旧DMM.R18)


この『燃えるゴミ女』というひどいタイトルのビデオですが、内容はタイトルに輪をかけてひどいです。彼女が慶応大学4年生で、大学院への進学を目指していたころに撮られた作品ですが、SMの鬼才である豊田薫の「生意気な女はいじめたくなる」という方針のプロデュースにより、壮絶な責めを受けています。ジャケットのキャッチコピーには「過激エロ志向の高学歴女は男の凌辱魂に火をつける。」と書いてあり、うちのブログの名前がほとんどそのまま入っていますが、単なる偶然です。このビデオが発売されたのが2006年で、うちのブログは2005年から書いているのでこっちのほうが先です。
このビデオで彼女が受ける責めは、

  • 私物だという高校の制服(本当に、彼女が通っていた明治学院高校の制服である)を着たまま放尿させられ、それを飲まされる
  • 犬耳メイドの格好で犯され、喘ぎ声は「わんわん」しか言うことを許されない
  • ゴミ捨て場のセットで複数の男に犯され、尿をかけられたうえに生ゴミ(ヨーグルトや生卵)まみれにされる
  • 縄師とサディズムマゾヒズムについて問答しながら縛られ、吊るされて鞭で打たれ、低温ろうそくをたらされる
  • 縄を解かれて放心状態のまま、むさ苦しい中年男(ハードな責めからコメディまでこなすベテラン男優で、最近は「エロメン」としても人気の佐川銀次)にねちっこく犯され、首を絞められながらセックスする

という凄絶なものでした。ドン引きする人もいると思いますが、まぁ、首を絞めるといっても失神するほどの強さではなく、キャプテン・ニュージャパンのカリビアン・デス・グリップよりちょっぴり優しいぐらいの感じです。

んで、『「AV女優」の社会学』には、撮影現場にあるという感動について、こう書かれています。

 私が撮影現場にいて素直に感じたのは、コンテンツとしての性質とは別次元で、現場には現場の感動があることだ。AV撮影の内容すべてを肯定的に見るわけではないが、ハードなSMプレイなど、過激な撮影の終了後はスタッフに言わせると「いい顔をしている」AV女優が多く見られる。
 それは身体的にきつい仕事への達成感であったり、初めて経験する性的行為の興味や快楽であったり様々であろう。

性表現におけるSMというのは単なる暴力行為ではなく、苦痛と羞恥を耐えて受容することを通じて、責めの対象となる人物の虚飾や虚栄を剥ぎ取り、心を解放する様を描くことを目的とするものですが、このビデオにおいて佐藤るりはその様を余すところなく表現しきっており、SMファンから高い評価を受けています。
そして、すべてのプレイを終えた彼女が見せる表情がもうね、ぞっとするぐらい「いい顔をしている」んですよ。ほぼ気を失った状態で、満足に受け答えもできないんですが、ものすごく凄艶な笑顔を浮かべてカメラを見つめるんですね。SMの趣味はないと思っていたぼくでも、これには脱帽しました。SMというのは変態的な欲望のあり方だけではなく、ハードな責めを受け切ることの達成感も、そこにはあったんですね。四天王プロレスにも通じるものがある、と言ったら的外れになるでしょうか。


この作品でSMに手応えを感じたらしい佐藤るりは、『背徳のM調教』という作品で自ら監督・脚本・主演を務めます。サディズムマゾヒズムへのなかなか深い洞察を含んだ、見応えのある作品ですが、「マスコミ記者の女性が、かつての過激な性体験を暴かれる」というストーリーで、しかも主人公が勤める会社が「文藝春旬」(当て字はテキトーです)なので、8年後の騒動を予言しているとしか思えませんでした。

※動画ダウンロードはこちらから→背徳のM調教 佐藤るり - アダルトビデオ動画 - FANZA動画(旧DMM.R18)




それから、最近は『テレクラキャノンボール2013』で映画ファンにも急速に認知されている監督のカンパニー松尾にも、佐藤るりと共演したビデオがありました。

HMJM/BOIN!BOIN!BOIN! [DVD]

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※動画ダウンロードはこちら→http://www.dmm.co.jp/mono/dvd/-/detail/=/cid=512vgd026/
これは3人の女優が出演するオムニバスで、動画配信サイトではジャケットにも写っている浜崎りお(2006年から2011年にかけ活躍した超売れっ子の巨乳女優であり、その出演作は1200本を超える)の主演扱いになっており、「佐藤るり」で検索しても出てこないので、最近の佐藤るりブーム(主演作品は軒並み、Amazonの中古価格が急上昇した)の中でもこれに気付いた人はたぶん少ないと思います。DVDもまだ安く買えます。


このビデオでは、メイン扱いの浜崎りおはドラマ仕立てで撮られていますが、2番目に出てくる佐藤るりはドキュメンタリータッチで撮られています。「大学をもうすぐ卒業して、もっと勉強するために大学院に行こうと思っています」という彼女(おそらく、『「AV女優」の社会学』の原型になった慶応大学の卒論をすでに書いたころ)を、カン松特有のロードムービー風リリカル映像で描き、キャラクター語りも過剰さを控えて、等身大の女性として演出されています。とはいってもあくまでAV基準であり、「男性経験は、客観的には100人以上だけど、自分の中では、よくなかった人や一回限りの人はカウントしてないので、10人ぐらい」と語ったりしてますケド。
ここでも、デビュー作で言っていた「小学生のころ、親の仕事の都合でイギリスに住んでいた」というエピソードが紹介されたり、具体的に勉強している分野を聞かれて「ニクラス・ルーマンの社会システム理論とか」と答えていたりするので、迫真性が増します。

ニクラス・ルーマン入門―社会システム理論とは何か

ニクラス・ルーマン入門―社会システム理論とは何か

カン松には「難しい話はわからない」と一蹴されてますけどね。


んで、からみが終わってから「将来の目標は」と聞かれた佐藤るりは、「ふつうです。人として正しく、やるべきことをやって、豊かな人間関係を持って、愛情を持って……」と答え、カン松は「ちゃんとした仕事も、セックスの分野も、しっかりできる人になってね」という言葉をかけるのでした。


その後、彼女は大学院を経て日本経済新聞に入社し、それと並行して『「AV女優」の社会学』を上梓した社会学者として、セックスワークをめぐる性の言論空間でも活躍していたのはご存じのとおりであります。

この、今年4月に大阪のロフトプラスワンエストで行われたイベントを撮影した動画で、最近の姿が見られますが、服装も髪型もAV女優時代とほとんど変わっておらず、しゃべり方も昔のままなので、なぜか嬉しくなりました。マスクで顔を隠すのは、本人いわく「下膨れの顔なので下半分を隠さないと美人に見えない」とのことでしたが、それでもこりゃバレるよなあ。



昔ファンだったAV女優との“再会”って、あんまり幸福な状況じゃないことが多いんですよね、ユーザーにとって。
引退した女優が復帰してくることって、最近はとくに多いんですが、AV女優がスティグマを負わされた仕事だとかどうとかいう以前に、一般論として、いちど辞めた仕事をまたやるってのは本人にとって不本意なことが多いじゃないですか。


そういう意味では、鈴木涼美が立派な文筆家になってぼくらファンの前に姿を見せてくれたのは、とてもうれしいんですね。



獣神サンダー・ライガーは、自分との試合で頸椎を痛めて引退した三澤威が、整骨の技術を身につけメディカル・トレーナーになったとき、「もしアイツが引退して身を持ち崩したんなら、オレも責任を感じるけど、アイツはしっかりやってるじゃない。アイツはレスラー崩れじゃなく、レスラー上がりの社会人だよ」というようなことを言っていましたが、それに近い感慨を、かつて巨乳AV女優「佐藤るり」のファンだった身としては、感じずにはおれないでいるのです。



でも、なぜか峰なゆかの旧作は観る気にならないんだよなあ。どうしてだろうなあ。