光る宇宙

このごろ「AV関係者の語り」ブームが続いているワスなのであります。というわけでこんな本も読んだんです。

裸心 なぜ彼女たちはAV女優という生き方を選んだのか?

裸心 なぜ彼女たちはAV女優という生き方を選んだのか?

社会学者の鈴木涼美が指摘したように、AV女優へのインタビューは

  • A:明るく性的に奔放な、ビデオ上と同一のキャラクターを語るもの
  • B:過酷な家庭環境や異常な成育歴を強調してまとめられたもの
  • C:ひとりの人間としての素顔に迫るもの

というタイプに分類できます。Aは男性向け週刊誌などで見られるもの、Bは中村淳彦の『名前のない女たち』シリーズ、Cは永沢光雄の『AV女優』シリーズや、先日も言及した森下くるみの『らふ』などがあり、今日取り上げる『裸心』もCタイプに入ります。


とはいっても、Cタイプもまた「偏見のある世界だけど、真面目に頑張ってるオンナノコ」という演出が、どうしても入ってくるものではあるんですけどね。


2011年に出たこの本で取り上げられている女優は、大塚咲、かすみ果穂藤井シェリー(現Shelly)、範田紗々、佐伯奈々、水野つかさ、滝沢優奈、星月まゆらの8人。現役だった人もいればすでに引退していた人もいますが、いずれも、AV女優のヒエラルキーでは上位に位置する人気女優であり、業界においてそれなりにメリットを得ていた人たちです。なので、壮絶な過去のある人も、基本的にポジティヴなトーンで語っているのが印象的です。


基本的には、「どんな子どもだったのか」「なぜAVの世界に入ったのか」「これから何をやりたいのか」を、お酒を飲みながら話すという流れですが、だんだんディープな領域に入っていくのが面白く、それぞれが自分独自の哲学を語っています。誰しも「うまいこと言いたい」欲望はあると思いますが、女優という人種はそれが特に強いんだろうなぁと思いました。


とくに印象的だったのは、引退を発表したばかりだった範田紗々ですね。

「生涯AVをやりたい」と言っていた範田が引退する、というので、インタビュアーの黒羽幸宏がいろいろと話を聞くんですけど、家族の話題になったときには涙をこぼして、


「どうして私の中に入ってくるの? どうして私の心に触れようとするの?」


なんて言い出すので、おいおいニュータイプかよと思いましたね。

とはいえ「あなたの来るのが遅すぎたのよ」と言い出すようなことも、赤い人が割り込んでくるようなこともなく、インタビューは何度も中断を挟みながら続き、彼女が崩壊した家庭で育ったことが語られます。両親が不仲で離婚したという彼女は、AVデビューするときに、業界のことを知るために女優のインタビュー集を読み、「ああやっぱりみんな悲惨な家庭で育ったんだ」と思ったとのこと。
これもたぶん中村淳彦の『名前のない女たち』だと思うんですが、あの本でインタビューされていた女優が何人も「ウソを書かれた」と言っていることを考えると、なんとも味わい深い。


「10年後には生きてるかどうかわからない」と言っていた範田紗々ですが、3年後の現時点では、タレントとして地道に活動しているようです。
http://blog.livedoor.jp/handa_sasa/


ほかにも、デビュー作がいきなり4時間2枚組の大作になった(カラミの出来が良すぎて切るところがなかった、という)逸材の水野つかさが、「この業界はお金もいっぱいもらえるし、チヤホヤされるけど、こんな環境にいたら自分がダメになる」とビデオ7本だけできっぱり引退した話とか、2度の妊娠中絶と自殺未遂を経験し「自分に罰を与えるため」AV女優になった星月まゆらが、デビュー作の内容が「ロボットに扮した加藤鷹とからむ」コメディだったのでいきなり楽しくなった、など印象的な話がいっぱいありました。本が出てから3年が経ち、まだ現役の人もいれば引退して業界からすっぱり足を洗った人もいますが、彼女たちに幸多かれと祈りたくなりました。