すごいAVを見たという話

ここ1ヶ月ぐらい、アダルトビデオの話ばっかり書いているので「お前は何をやっているんだ」とお思いの方もいらっしゃるかと思いますが、あまりにもすごい作品を観てしまったので、この衝撃をどこかで書かずにはおれないのです。
以下いちおう18禁です。あとそういう話題の嫌いな人はご遠慮ください。






アダルトビデオには、美少女系、痴女系、ハード企画系などいろいろなジャンルがありますが、ドキュメンタリー性の強い作品もいくつかあります。平野勝之林由美香との不倫旅行を記録した『由美香』やそれを発展させた映画『監督失格』などがその代表的作品ですが、ぼくはAVにはもっと気軽な娯楽を求めていたので、そういう作品には手を出さずにいたんです。

監督失格 DVD2枚組

監督失格 DVD2枚組


ですが、ぼくの中に吹き荒れている「AV関係者の語り」ブームを受けて、今年の4月に出て評判になったという、このビデオを観てみたんです。

※動画ダウンロードはこちら→あの娘のドキュメント AV女優 春原未来のすべて - アダルトビデオ動画 - FANZA動画(旧DMM.R18)


3時間超の大作。AV女優の春原未来(すのはら・みき)と、監督のタートル今田が2泊3日+αの旅行をしながら、語り合い、セックスをするという内容なんですが、とにかくこの女優がものすごいんですよ。
春原未来は、2012年に美少女専門レーベル(そういうビデオばっかり出すメーカーがあるんです)「kawaii*」専属としてデビューし、半年で専属契約を終了した後は幅広く活動している人気女優です。
(そういう女優は「企画単体」略してキカタンと呼ばれ、業界では重宝される)


ジャケットを見ればわかるように、超美人で超ナイスバディの、AV女優としては理想的なルックスの持ち主(芸名の由来になったのか、原幹恵にちょっと似ている)ですが、外見だけでなくそのスキルやプロ意識も非常に高く、業界の評判もすこぶる良いようです。安田理央さんのこちらのエントリも参照のこと。


『春原未来のすべて』は、安田さんのエントリでも紹介されている『日本ハメ撮り大賞2013』(なんつうタイトルだ)の撮影で春原未来と絡んだタートル今田が、そのときに失敗した(カメラのバッテリー切れなどハプニングが続いた結果、AVの命ともいうべき、射精の瞬間が取れていなかった)ことのリベンジと、彼女が語っていた「AVをやる理由」に興味を持ったことからはじまります。


なぜAV女優になったのか、と問われた女優は、たいていカメラが回っているところでは「エッチが好きだから」とか答えるし、ジャーナリズムの入ったインタビューだったら「お金が必要だった」とか「家庭環境が悪かった」とかそういうことを言うんですけど、春原未来はいきなりマズローの欲求5段階説を持ち出します。

完全なる人間―魂のめざすもの

完全なる人間―魂のめざすもの

アブラハム・マズローの理論によれば、人間の欲求は「生理的欲求」「安全の欲求」「所属と愛の欲求」「承認の欲求」「自己実現の欲求」と段階を踏んでいきます。「人の役に立つことがしたい」という春原未来は、自分のビデオを見ることで、生理的欲求のうちにある性の欲求を満たし、ファンにも自己実現に近づいてほしい、と考えているというのです。



ここで興味を持ったタートル今田監督は、彼女とメールのやり取りやミーティングを重ねることで企画を練り、「私のことを知ったら、100%嫌いになるよ」という彼女を説き伏せて、結果として「小樽まで2泊3日の旅をして、そこで彼女と話し合いながら、気が向いたらセックスをする」というプランを立てました。監督が男優とカメラマンを、女優がADを兼ねるという最小限のユニットで旅ははじまります。


初日は札幌のホテルにチェックインし、ここではロングインタビューが行われます。この内容が、春原未来のプロ意識というより、常軌を逸した自己犠牲と奉仕の精神が露わになる、鬼気迫るものなんです。
ベッドに腰掛けて「とにかく誰かの役に立つことがしたかった」という彼女ですが、AV女優には珍しくない異常な自己評価の低さを見せて「でも私には何もできない」「医者や弁護士みたいな仕事はできない」「私の価値はセックスしかない」と、切々と語ります。
監督も、たぶん「そんなことないんじゃないの」と言いたくなるところだったと思いますが、そこをぐっとこらえてさらに語らせます。内容はさらに、常人では考えられない領域へと踏み込んでいきます。
春原未来は、やるからには命がけでやるしかない、という覚悟を表明して「それで死んだら死んだでいい」とまで言います。「自分には他に何もない」「これで死んでもかまわない」というから、エヴァンゲリオンに乗る綾波レイ並みの覚悟です。そりゃシンジさんもドン引きしますわ。
しかもですよ、「そういうことをすると発売できないのはわかってるけど、引退作では流血とかしたい」「そういう性癖の人、屍姦が好きな人とかもいるから、みんなに喜んでほしい」みたいなことを言い出すので、オレの中のメンヘラセンサーが「これあかんやつや」とアラートを鳴らし始めるんですわ。


しかし、春原未来はその辺のこともきっちり理解していて「だから、ネットとかでメンヘラって書かれたりする」と言うので、先回りで出鼻をくじかれます。
リストカットとかはしてないけど、やる人っていうのは気づいてほしいからやる」「本当につらい人は、気づいてほしいという思いも出せない」と語るので、彼女も相当につらい思いをしてきたのだろうと思わされますが、監督はそこにはあえて深く突っ込まず、彼女の語るにまかせます。「両親には愛されて育ったけど、2人の人生に私は必要なかった」「両親は結婚するべきじゃなかったし、私も生まれるべきじゃなかった」というあたりは聞いていて本当につらくなりますが、でも、このぐらいのことを言うAV女優ならそこまで希少というわけでもないんです。


春原未来がすごいのは、プロ意識とかサービス精神とかいう枠組みをはるかに超えてしまっている、ファンへの愛情です。


「自分の作品で楽しんでほしい」ぐらいのことは、プロのAV女優なら誰でも言いますが、春原未来は「どんなに忙しくても、月に1度はファンと触れ合うイベントをやりたい」「本当はファンクラブじゃなくてサークルを作りたい。みんなで運動とかして、みんなが健康な生活を送れるようにしたい」「ファンの人には、私のビデオでオナニーするだけで自己完結してほしくない。私のことを見て、女の子っていいものだなと思って、一歩外へ踏み出して、いい恋愛ができるようになってほしい」なんてことまで言うんですよ、すげえ真顔で。


AVファンのみならず、アイドルのファンにもあると思いますが、崇拝しているはずの女優やアイドルに対して「でもどうせ俺らファンのことなんか、金もってくるゴキブリ程度にしか思ってねえんだろう」みたいな屈折した想いがあったりするじゃないですか。でも、春原未来はファンの人生についてまで考えているというのだから、もうね、この人は菩薩か何かか、と思いましたね。
(この人は前からそういうことを考えていたらしく、2年前にもこういうファンへのメッセージ動画を作っている)


そして、でもサークル活動は会社に止められる(そりゃそうだ、絶対ストーカーされるし最悪の場合は殺される)ので「メーカーの社長とか会長とか、権力を持ってる人たちは全然その権力をみんなのために使ってくれない」「偉い人たちは現場のことなんて全然わかってない(←新橋のサラリーマンかと思った)」「私は子どものころからそんな大人が大嫌いだったのに、でも、いまは自分がそんな大人になってしまっている」と涙をこぼし、鼻水まで垂らして泣き出すので、この辺で「このビデオ無理」と思う人もいるかもしれませんが、ぼくの場合はもう、ここまでですっかり、この特異な人物の虜になってしまいましたねえ。


ちなみにここまででランタイムは1時間以上ありましたが、まだ一度もセックスの撮影は行われないまま、旅の1日目は終わるのでありました。


<明日に続くかも>