五色の舟

近藤ようこの『五色の舟』を読んだッス。
11 eleven (河出文庫)

11 eleven (河出文庫)

津原泰水の同名小説(ちなみに未読)を原作に、戦時下で見世物興行をいとなむ身体障害者の一家(血のつながりはない疑似家族)を描くという、かなり刺激的な題材の作品ですが、筆致はおだやかで幻想的な美しさに満ち、しみじみと味わい深い良作でありました。


主人公一家は、岩国で生まれたというくだんを求めて旅をするんですが、そのくだんのヴィジュアルイメージも新鮮で(ミノタウロス型でも牛の体に人間の頭という型でもなく、独特の生物的フォルムを備えている)、語り口のおだやかさもあって、妖怪というより神獣といったほうが近いような趣きを持っています。


くだんの能力も、従来の予言にとどまらず、世界線を乗り越えるというスケールの大きなSF的発想になっており、アニメファンなら『STEINS;GATE』や『輪るピングドラム』を思い出す人もいるかもしれません。原作が発表された時期も同じぐらいだし、そういうのが流行ったんでしょうね。

STEINS;GATE 比翼恋理のだーりん - PS3

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Penguindrum Collection 1 (輪るピングドラム) [第1話‐12話] [Blu-ray] [Import]

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でも、これらの作品がケレン味の効いた演出で見せているのに対し、『五色の舟』は静謐でどこまでも滋味深い筆致になっており、さすがの貫録だと思いましたね。


「あったかもしれない未来」「なかったかもしれない現実」「ここではないどこか」「あそこではないここ」という、歴史改変ものに不可欠な切ない味わいを、押し付けることのない淡々とした筆で描いており、ストレスがたまったときに読むと心が落ち着くと思います。明日から連休の人が多いと思いますが、お休みのときにじっくり時間を作って読むより、むしろ忙しいときにさっと読むほうが(分量も多くないし)ふさわしい作品かもしれません。そして、何度でも見返しては味わい直せる作品だと、ぼくは思います。