俺は地獄のテロリスト

移り気なネット住民はもう忘れているかもしれませんが、今年の2月、1999年に発生した光市母子殺害事件最高裁判決が出て、死刑が確定しましたよね。


んで、熱心に活動していた被害者の夫が、実は再婚していたことも公表され、ホッとするとともにいささかショックを感じる人もいたものでした。
実は、ぼくはあの人物について、あまりいい印象を持っていません。

天国からのラブレター (新潮文庫)

天国からのラブレター (新潮文庫)

事件後に出版された書簡集『天国からのラブレター』は、知人の実名を挙げて悪口を書いていたり、性生活の露骨な暴露などがあったりするため、批判されることの多い本ですが、とくに批判が集中しているのが、被害者の夫による、この部分です。

 女性は襲われたとき、自分の命を守るために、凌辱に甘んじてしまうことがあると何かで読んだことがあります。「激しく抵抗し続けて殺されるくらいなら」と頭で考えて抵抗を止めてしまうのではなく、死への本能的な恐怖が抵抗をやめさせるらしいのです。
 しかし、死への本能的な恐怖すら乗り越えて、弥生は激しい抵抗を止めなかった。最後の最後まで凄絶に拒否し続けた。そして、その懸命の拒絶によって命を失ってしまった。弥生は私を心から愛してくれていました。だからこそ、犯人に対して最後まで必死に抵抗したのに違いありません。弥生は私以外の男に体を汚されることを、命を賭して拒絶したのです。最後まで、私への愛を貫く道を選んでくれたのです。たとえ自分の命を落とすことになっても、必死で弥生は抵抗し続けたのです。妻はそういう潔癖な女性でした。私はそんな弥生を、今でも誇りに思って生きています。

このくだりは、妻の死という事実を無理やりにでも受け入れなければならないという事情があるにせよ、あたかも貞操に生命以上の価値があるかのように語っており、ここにはどうしても共感できませんでした。


こういうレイプ神話というか、「貞女たるもの凌辱には命がけで抵抗すべし」という意識は日本人に根強く残っていて、太平洋戦争でも、沖縄や樺太などで多くの女性が「貞操を守るため」という大義名分のもと「自決」した例が広く知られています。

母の遺したもの―沖縄・座間味島「集団自決」の新しい事実

母の遺したもの―沖縄・座間味島「集団自決」の新しい事実

九人の乙女 一瞬の夏―「終戦悲話」樺太・真岡郵便局電話交換手の自決

九人の乙女 一瞬の夏―「終戦悲話」樺太・真岡郵便局電話交換手の自決


さて、日本ではこういう事例がありますが、アメリカに目を向けたらどうかといいますと。


http://www.cnn.co.jp/usa/35020614.html

「正当なレイプ」なら妊娠はまれ――米共和党議員が失言認める

(CNN) 米共和党のトッド・エイキン下院議員(ミズーリ州)は19日、「『正当なレイプ』が妊娠に結びつくことは滅多にない」とした自らの発言は失言だったと認めた。
エイキン議員は人工妊娠中絶反対の立場で保守層の支持を集め、今年11月の選挙では上院議員選に出馬予定。地元テレビ局のインタビューの中で、強姦事件の被害者の場合は中絶を認めるべきかと尋ねられて反対の意見を示し、「私が医師から聞いた話では、(強姦被害者の)妊娠は極めてまれだ」「もしそれが正当なレイプなら、女性の体にはすべてを拒絶しようとする仕組みがある」と発言した。「正当なレイプ」の定義についての説明はなかった。
リベラル系の団体がこの内容をインターネットに投稿していた。
エイキン議員は19日、「インタビューの中で失言があった。強姦や暴行の被害に遭っている年間何千人という女性に対し、私が抱いている深い同情の念を反映したものではない」とのコメントを発表。ただし強姦被害者の中絶に反対する立場は変わらないと述べ、「罰せられるべきはレイプ犯であって、子どもではない」と強調した。
強姦事件は被害者が被害届を出さない場合も多く、妊娠について正確な統計を取ることは難しい。しかし被害者支援団体の推計によれば、レイプを原因とする妊娠は全体の5%を占める。サウスカロライナ医科大学は1996年の調査で、レイプによる妊娠件数は年間3万2101件に上ると報告していた。

これはすごい発言ですね。「本気で拒絶すれば妊娠しない」って、どういう精神論なんでしょうか。むしろ、レイプ被害者は生命の危機を感じて本能的に子孫を残そうとするので妊娠しやすくなる、といわれている(これもまた根拠は薄弱だが)ぐらいなんですけど。


「正当なレイプ」という表現もすごいですね。原文にあたってみたら"legitimate rape"という表現をしていて、訳せば「正当な」「道理にかなった」「合理的な」という語句になります。AFP通信の記事では「まっとうなレイプ」と訳されています。


http://www.afpbb.com/article/politics/2896173/9384849


いずれにせよ、言葉そのものが成立しないようなひどい語句ですね。アメリカでも、政治家のレイプに関する認識は低いようです。エイキン議員が言いたいのは、古典的な「レイプ神話」にのっとった、「暗い小路で発生する」「犯人は見知らぬ男である」「被害者は死にもの狂いで抵抗する」などの条件を満たしたものなんでしょうけど、レイプという犯罪の実態はそんなに単純ではなく、大多数の男性が「自分とは無関係」と切断できるものでもありません。ぼくだって、望んでいない女性に性行為を強要したことは絶対にない、と断言することはできないし、「本物のレイプ」と「偽物のレイプ」を区別することもできません。



いや、一人だけ、「本物のレイプ」を体現できる人物がいました。

デトロイト・メタル・シティ (1) (JETS COMICS (246))

デトロイト・メタル・シティ (1) (JETS COMICS (246))


デトロイト・メタル・シティヨハネ・クラウザー2世……ってあぁもうこれは7年も前の漫画だよ! こんなネタで落とそうとしたって誰も納得しねえよ! 「どうせ『正当なレイプ』って語句から連想して、この画像を使いたいために書いたエントリなんだろ」って言われなくても分かってるよ!


でもやるんだよ!