後付け血統主義あれこれ

今日のネタは増田から。


http://anond.hatelabo.jp/20120702151444

血統主義な少年漫画が多い」=「オカルト・非科学マンガが多い」

はてなブクマで

「日本の少年マンガは、血統に秀でた主人公が多い、

 そんなのでは萎えないか?感情移入できないんじゃないか?」という問題指摘が

中国人マンガ愛好家からあった。

http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1719416.html

>主人公が戦いの中で強くなる、強さを見せるというのはアニメや漫画における

>爽快なシーンですが、その強さの理由に「キャラクターの血統」といった背景が関係することも

>多いかと思います。中国オタクの中には「強い理由が血統」ということについてちょっと

>考えてしまうこともあるらしく、中国のネットで話題になっていました。

>考えてみると日本の作品の主人公の強さって、結局は血統で決まってない? 

>強いキャラはみんな「良い血統」という背景がある。主流な少年漫画を見てみれば、

>ルフィもナルトもゴンも一護もリクオもハッキリと血統による強さとなっているし、

>コナンなんかでも同じ分野で優秀な親の才能を受け継いでいる。

>優秀なキャラには、優秀な血統が背景としてあることが多いね。ここまで多いと、

>この設定が日本人の感覚独自の強い説得力を持っているのではないかと考えてしまう。

>血統か……特に印象的なのは「NARUTO」かな。ロック・リーはどうすればいいんだ……

>ジャンプ系だと、「るろうに剣心」が血統による強いキャラってのが出てないね。

>ただ、あれは時代設定的に明治維新というそれまでの封建体制が崩壊した時代と関係するから

>血統重視のキャラが出ていないのかも。(続く)

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2012&d=0629&f=column_0629_029.shtml

>少年漫画の範疇ではないけど「ベルセルク」のガッツは血統とか全く無いキャラだね。

>言われてみればああいうのは珍しいかも。日本のアニメは昔からそうだぞ。

>お前ら「一休さん」が単なる片親しかいない子供だと思っているのか?

>一休は南朝天皇の私生児で、出家しなければ大きな問題になっていた。

>それと単なる寡婦だと思われていることの多い母親も藤原氏の血統だから、

>一休はスゴイ血統のキャラということになる。

>全てが血統によるものではなくても、本人の努力や師匠的存在、育った環境、過去の

>経験と同じかそれ以上に重要なものだったりすることは多いかも。

>それから血統と背景があると話が作り易いのかもね。伏線にもできるし。

>正直、修行で強くなったりはするけど強くなれた理由が結局は血統による能力ってことだと、

>なんとなく冷める時がある。

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2012&d=0629&f=column_0629_029.shtml

成る程、と思ってよくよく考えると、もっと根の深い話が日本の少年コミックには

あるような気がした。

いわゆる「日本の少年誌」というのには

「ファンタジー・SF・伝奇モノ」が多くて、

「スポーツモノ・学園モノ・ギャグコミックが少ない」ということもあるのではないか?

30年以上前、自分が小学生の頃の「ジャンプ」「サンデー」「マガジン」などは、

もうちょっと「スポーツモノ・学園モノ・ギャグコミック」が多かった気がする。

特に学園モノ・ギャグモノとかは、主人公の血統を問わない設定が大半だし

有閑倶楽部あたりは違うな、少女漫画だが)、スポーツモノも、

主人公の血統がいいパターンは、あまりないと思う。

なので、自分が小学生の頃は、それなりに少年マンガを読んでいたと思う。

しかしその後、少年マンガを暫く読まないまま大人になり、たまに散髪屋とかで

「ジャンプ」「サンデー」「マガジン」あたりを手に取ると、

「殆どがファンタジー・SF・伝奇モノ」で、ビックリした。

ここでいう「ファンタジー・SF・伝奇モノ」というのは

「主人公が超能力や霊力を駆使したり」

「現実世界ではありえない世界設定」だったり

「現代科学に則らない法則を前提とする」マンガのこと。

こういうマンガでは、そりゃ血統の設定が重要視、当然視される。

自分は元々が「オカルト・擬似科学嫌いな理系チック人間」なので、

「主人公が超能力で対決する」という設定のストーリー、と分かった時点で

「次の頁を一切見たくなくなる、興味が萎える」。

ジャンプ辺りで「安心して読める」のは、せいぜい「こち亀」くらいか?

(あれもハチャメチャなマンガではあるが、一応現代科学の法則を逸脱はしていない)

それ以外は全て超能力系だったりして、腰抜かした。

まあ自分が「今の小学生」だったら、これら3誌は絶対買わないなあ。

「ジャンプ・サンデー・マガジンでこんなに非科学的マンガが横行して、

 日本の科学リテラシーは大丈夫か?オカルトに嵌る若者を産みだす下地を作ってないか?」と

心配になる反面、

少年マンガの売れ行きが減少しているのは、オカルト流行りの連載ばかり

 厚遇されている誌面作りに、小学生中学生が飽き飽きしているから、

 彼等もバカじゃない」という側面もあるのでは?と思うので、少し安心する。

せめて成人コミック程度に、

「オカルト頼みじゃない、リアルワールドなコミックの比率を高めようよ」と

集英社小学館講談社に言いたい。

この記事がけっこうなブクマも集めているのですが、すぐにツッコミどころがいくつも見つかりますね。

いわゆる「日本の少年誌」というのには

「ファンタジー・SF・伝奇モノ」が多くて、

「スポーツモノ・学園モノ・ギャグコミックが少ない」ということもあるのではないか?

30年以上前、自分が小学生の頃の「ジャンプ」「サンデー」「マガジン」などは、

もうちょっと「スポーツモノ・学園モノ・ギャグコミック」が多かった気がする。

特に学園モノ・ギャグモノとかは、主人公の血統を問わない設定が大半だし

有閑倶楽部あたりは違うな、少女漫画だが)、スポーツモノも、

主人公の血統がいいパターンは、あまりないと思う。

まず、昔のスポーツ漫画に主人公の血統がいいパターンは少なかった、というのが事実と反しています。


スポ根漫画の元祖であり、業界の勢力図を大きく塗り替えた『巨人の星』を見てみましょう。星飛雄馬の父である星一徹は、もと巨人軍の選手でしたが戦争などのため挫折し、その夢を託すべく、飛雄馬が幼い頃から徹底したスパルタ教育を施します。

漫文巨人の星全11巻セット (講談社漫画文庫)

漫文巨人の星全11巻セット (講談社漫画文庫)

なお、梶原一騎作品では『柔道一直線』『柔道賛歌』なども、主人公は父や母の跡を継いだ二代目選手です。
あしたのジョー』『カラテ地獄変』など「孤児が厳しい師匠のもとで修行し成長する」パターンも多い梶原作品ですが、血統のいい主人公もよく出てきます。


アストロ球団』は、沢村栄治の遺志を受け継いで生まれた、9人の超人たちが主人公です。彼らの才能は、血統というとちょっと違いますが、やはり生得的なものです。

アストロ球団 (第1巻)

アストロ球団 (第1巻)


『がんばれ元気』は、元気の父であるシャーク堀口もプロボクサーであり、関拳児との父子二代にわたる戦いを描いています。

がんばれ元気 (1) (小学館文庫)

がんばれ元気 (1) (小学館文庫)


リングにかけろ』でもやはり竜児と菊の実父がプロボクサーで、剣崎も財閥の御曹司で英才教育を受けており(双子の弟は影道の総帥である)、志那虎も剣術流派の跡取りで父親からスパルタ教育を受け(その後遺症で右のパンチは打てない)、河合も姉に音楽とボクシングの英才教育を受け、しかもその出自は阿修羅一族の後継者だったことが後にわかります。

(後付けで「実は○○の末裔だった」設定が出てくるパターンは、後の『幽☆遊☆白書』に受け継がれている)


プロレススーパースター列伝』ファンクス篇は言わずもがなです。

プロレススーパースター列伝 (1) (講談社漫画文庫)

プロレススーパースター列伝 (1) (講談社漫画文庫)

(ファンクスに限らず、プロレス界には二世レスラーが少なくない)


もちろん、血統に恵まれない主人公のスポーツ漫画もありますが、スポーツ漫画において「血統のいい主人公」は比較的よく見られます。


ジャンプ辺りで「安心して読める」のは、せいぜい「こち亀」くらいか?

(あれもハチャメチャなマンガではあるが、一応現代科学の法則を逸脱はしていない)

この人は『こち亀』をちゃんと読んだのでしょうか。天国から来た魔法使いのじいさん(花山理香)とか知らないんですかね。

なお、両さんは67巻から80巻までニューハーフ警官の麻里愛と寮の同室で暮らしており、日頃のミソジニー的言動もあって両津ホモ説が根強くささやかれていましたが、花山の魔法によって麻里愛は身も心も女性に変身し、女子寮に移った(両津もその後ニコニコ寮から超神田寿司に移住している)のでした。他にも、両津が閻魔大王を倒して地獄の支配者になる話とか、四年に一日だけ目を覚まして超能力で犯人を当てる日暮熟睡男(そういえばそろそろ出てくるな)とか、現代科学の法則を逸脱したファンタジー・SF的なエピソードがいっぱい出てきます。



この増田の人は、SFやファンタジー的な設定のある漫画を「オカルト漫画」と呼んでいますが、漫画において本格的なオカルトが導入されたのは1973年、「週刊少年チャンピオン」に掲載された、つのだじろうの『亡霊学級』がその始まりとされています。


この作品の好評を受け、つのだは「週刊少年マガジン」に心霊学を基調とした『うしろの百太郎』を、「週刊少年チャンピオン」には悪魔学やUFOなど幅広くオカルトを扱った『恐怖新聞』を連載し、いずれも大ヒットを記録します。

うしろの百太郎 (KCデラックス)

うしろの百太郎 (KCデラックス)

恐怖新聞 (1) (少年チャンピオン・コミックス)

恐怖新聞 (1) (少年チャンピオン・コミックス)

70年代は、『エクソシスト』や『ノストラダムスの大予言』のヒットもあってオカルトがブームになった時代でした。その時代に比べると、現代の少年漫画誌がオカルトに傾倒しているとはとうてい思えません。


ちなみに、『うしろの百太郎』の一太郎は、強い守護霊がついているおかげでキチガイになったお父さんとナイフで殺し合いをしても助かりましたが、『恐怖新聞』の鬼形礼は守護霊が弱かったせいで悪霊に殺され、恐怖新聞の配達人になってしまいます。この両作品にも血統主義が見られますね。

30年以上前、自分が小学生の頃の「ジャンプ」「サンデー」「マガジン」などは、

もうちょっと「スポーツモノ・学園モノ・ギャグコミック」が多かった気がする。


本当でしょうか。ちょっと検証してみましょう。

週刊少年ジャンプ」2012年31号掲載作品

週刊少年ジャンプ」1982年31号掲載作品


いかがでしょう。ラブコメの急激な増加もあり、学園ものは30年前よりむしろ増えています。ギャグもの、スポーツものも昔とそう変わりません。それ以外の作品が全部バトルものに収束していき、企画の貧困を示しているのは確かですが、少なくとも「スポーツもの、学園ものが減っている」事実はありません。あと、非科学的漫画の代表ともいえる『キン肉マン』がすでに連載されています。

キン肉マン 39 (ジャンプコミックス)

キン肉マン 39 (ジャンプコミックス)

血統漫画も、30年前からすでに見られていますね。


少年マガジン」「少年サンデー」については、そこまで調べる体力がありませんでした。まぁいちばん時代の空気を反映する雑誌が「ジャンプ」だということで勘弁していただきたい。


そして。

せめて成人コミック程度に、

「オカルト頼みじゃない、リアルワールドなコミックの比率を高めようよ」と

集英社小学館講談社に言いたい。

秋田書店ディスってんの?

弱虫ペダル 23 (少年チャンピオン・コミックス)

弱虫ペダル 23 (少年チャンピオン・コミックス)

ちなみに、現在「週刊少年チャンピオン」に連載されている作品では『弱虫ペダル』が非血統主義、『範馬刃牙』と『バチバチ』が血統主義といえるでしょう。
範馬刃牙 35 (少年チャンピオン・コミックス)

範馬刃牙 35 (少年チャンピオン・コミックス)

どちらもドラマ上の必然性があるので、血統主義だからけしからんということはないと思いますね。