ほかならぬ人へ

昨日は、山形市白石一文先生を講師にお迎えした「小説家になろう講座」を受講してまいりました。

ほかならぬ人へ

ほかならぬ人へ


白石先生は、父の白石一郎先生と親子二代で直木賞を受賞された、いまのところ唯一の作家です。

海狼伝 (文春文庫)

海狼伝 (文春文庫)


そんな白石先生が、はじめて小説を書いたのは十九歳のころだとのこと。お父上の時代小説はほとんど人が死なないので、それに意見したところ「ならお前が書いてみろ」と怒られ、すぐに五百枚の原稿用紙を買って、三日間徹夜して万年筆でガリガリ書きまくったのが始めだそうです。それまでは、自分で小説を書くことは考えていなかったそうですが、きっかけというのはどこに転がっているかわからないものですね。


とはいえ、それからすぐ作家になったわけではなく、文藝春秋の編集者として長く務められてからデビューされたので、その下積みはたいへんだったそうです。毎日二時〜三時に帰宅して、少し仮眠をとって六時ぐらいから自分の小説を書く。そんな生活を十年以上続けられたというから、その苦労は想像もつきません。しかし、編集者はなかなか同業者が書いた小説を認めようとせず、「この小説のどこがダメか、君がいちばん分かってるだろ?」みたいなことを言われ続けたとか。でも白石先生ご自身はそれなりの自信を持って書いているわけで、複数の出版社に断られてもあきらめず、偏見を持たれないよう他人の名義で持ち込んでやっと認められたそうです。それが『一瞬の光』で、三十万部を超えるベストセラーになりました。

一瞬の光 (角川文庫)

一瞬の光 (角川文庫)


そんな苦労をされた白石先生だけに、受講生に向かって説かれたのは「たくさん書くこと。しつこく書くこと。あきらめないで書くこと。異常なくらい書くこと」という、シンプルですがいちばん難しいことでした。とくに「しつこく書く」ことを強く勧められており、コレといった特別な体験やネタを持たない人が優れた作品を書くためには、つまみ食いせず、浮気せず、しつこく書くこと。強い力で彫り続けること。そうすれば、自分で用意したものでない何かが、作品の中から出てくる、とのことでした。とにかく書くことによってしか、書き方を発見することはできないんですね。


白石先生は、「女性の考えることはわからないから」と、以前は女性を語り手とする小説は書こうとも思わなかったそうです。ところが、あるときたまたま女性視点で書いてみたところ、これが非常に書きやすかったとのこと。というのも、女性を語り手にすると多くの場合は相手役が男性になるわけで、男性について書くのならば自分と共通するメンタリティを描くことなので、書きやすかったそうです。実際にやってみないとわからないことはあるんですね。


文章を書くときには、「誰に向けて書くか」が重要になります。白石先生が中高生のころは、生きづらさを感じながら年間二百〜三百冊を読破し、そんな中でサルトルカミュカフカの小説に、自分と同様の生きづらさを抱えたメンタリティを見出して「自分だけじゃないんだ」と思われたそうです。

嘔吐

嘔吐

いまご自分が書く立場になってみると、ポピュラー作家である以上はなるべく万人に向けて書く必要がありますが、自分と同じような生きづらさを持った人に届けることも意識して書いておられるそうです。


ぼくもブログを書くときには、なるべく多くの人が読んで理解できるように書いているつもりですが、どこかで誰かが共感してくれるような書き方もできるようになりたいものです。



ちなみに、話の流れの中でAKB48を見るとやっぱり前田がいちばん可愛いと思いますね」とも言及されていましたが「でもそんなに可愛くはない」と持ち上げたあと即座に落とされていたのもなぜか印象に残っています。

BARFOUT! 190 前田敦子

BARFOUT! 190 前田敦子

次回の講座

8月は「小説家になろう講座」はお休みです。9月はスペシャルイベントですので、乞うご期待。