いんだよ細けえことは!

サマーウォーズ スタンダード・エディション [Blu-ray]

サマーウォーズ スタンダード・エディション [Blu-ray]

一ヶ月ちょっと前の話ですが、深町秋生先生が、テレビ放送されたアニメ映画『サマーウォーズ』について批判的なエントリを書かれました。


アナーキーな自警団「サマーウォーズ」 - 深町秋生の序二段日記
要するに「ストーリーに必然性がない」という点を批判されているのですが、この意見について「娯楽映画にリアリティを求めるべきでない」というような反応が少なからず見られたのが、ぼくにとっては意外でした。


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だって、「娯楽として楽しめなかった」という意見に対して、「娯楽だからいいじゃないの」という反応はオカシイでしょう。
最近はすっかり定着した感のある「こまけぇこたぁいいんだよ!」というネットスラングがありますが、

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   /     i f ,.r='"-‐'つ____   こまけぇこたぁいいんだよ!!
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    /   ,i   ,二ニ⊃( ●). (●)\
   /    ノ    il゙フ::::::⌒(__人__)⌒::::: \
      ,イ「ト、  ,!,!|     |r┬-|     |
     / iトヾヽ_/ィ"\      `ー'´     / 

これが成立するのは、多少の瑕疵を「こまけぇ」と吹っ飛ばせるだけの魅力があってこそです。『サマーウォーズ』は、スケールの大きな話のはずですが発想にどこかこじんまりしたところがあり、結果として、リアリティのなさをカバーできるほどの面白さを獲得できていなかったように、ぼくも思いました。


(観たときの感想→ウォー・ゲーム - 男の魂に火をつけろ!


で、「こまけぇこたぁいいんだよ!」の元ネタになったのは、平松伸二の漫画『マーダーライセンス牙ブラックエンジェルズ』だといわれています。

この漫画は『マーダーライセンス牙』の続編にあたり、過去のヒット作『ブラック・エンジェルズ』の主人公、雪藤洋士が登場してくるクロスオーバー作品になっていました。


そして、『ブラック・エンジェルズ』で人気のあったキャラクター、松田鏡二まで再登場しました。しかし、松田は前作で銃弾を頭に受け、死亡しています。その当然の疑問を雪藤から「あんた死んだはずじゃ……」とぶつけられた松田は、

「いんだよ細けえことは」という一言で済ませてしまいます。


これは、本来ならぜんぜん細かいことではありません。前作での松田は、ただ頭を撃たれたというのみならず、その死体は雪藤によって埋葬されており、その後には霊魂となって仲間の危機を救う場面すらありました。「実は生きてました」という言い訳はどうやっても成立しません。


というか、そもそも『マーダーライセンス牙ブラックエンジェルズ』は『マーダーライセンス牙』の世界観を継承して描かれており、『ブラック・エンジェルズ』後半で描かれた、大地震による関東壊滅はなかったことになっています。つまり、あくまで雪藤や松田はスターシステムによる借り物のキャラクターなので、登場させるのであれば、前作で死んだという事実をなかったことにするのが本来のスジだといえるでしょう。『デビルマン』と『バイオレンスジャック』のように。


しかし、それでは「あの松田が帰ってきた」という感動が薄れます。そのため、矛盾をあえて無視することで読者の常識を覆すという戦略を選んだのでしょう。


平松伸二はもともと、緻密な設定で創作する漫画家ではありません。デビュー作『ドーベルマン刑事』から一貫してその作品世界は間違いだらけで、読者を常にバカ負けさせ続けてきましたが、あふれるほどのパワーと熱気、社会悪への怒り、そして炸裂する不謹慎爆弾によって、設定の瑕疵を吹き飛ばしています。


その創作姿勢に「いんだよ細けえ事は」というフレーズはぴったりで、復活した松田はその後もジャンボジェットを素手で止めるなどの活躍を見せ、そしてこのたび、「別冊漫画ゴラク」の新連載『ザ・松田』でまたしても復活いたしました。

その活躍ぶりと不謹慎な時事ネタの盛り込み、ならびに平松伸二お得意の黒人ネタは今回も絶好調です。くわしくはこちらを参照のこと。


ブラック・エンジェルズ四度の降臨。平松伸二「ザ・松田-ブラック・エンジェルズ-」が別冊漫画ゴラクで連載開始。


いやぁスゴかった。今回の松田は出番の半分以上が全裸というすさまじい事態にもなっており、どこからツッコんでいいのか全くわかりません。とにかく「なんだかスゴいものを見た」という感覚だけが残っています。


ちなみに「別冊漫画ゴラク」には、由起二賢の『野望の憂国』も載っています。こっちの下らなさも、もはや神域に達しているといえるでしょう。

タチバナとカタオカがただヨタ話をするだけ、というからもうね。いっそ竹熊健太郎に原作やってもらえばいいのに。