Captured

本日は、韓国映画『チェイサー』を観てきたッス。


http://www.chaser-movie.com/


韓国で実際にあった柳永哲連続殺人事件をモデルにして、デリヘルを経営する元刑事(前田日明似)が、失踪したデリヘル嬢ミジンを探して殺人鬼を追うという内容はもうみんな知ってると思いますが、いやあ重い映画でした。


映画の前半では、前田は失踪した女たちはよそに売られたものと思い込んでいて、ぐうぜん犯人(草食系っぽいメガネ男子)を見つけても、彼の「殺した」という供述をまったく本気にせず「デタラメを言うな」と怒るんですね。


そういう、ゼニカネだけが価値観の世界で生きていた前田が、事件を追ううちにゼニカネの通用しない世界に突入していく、彼の世界が変容していく過程が見られたのが印象的でした。


草食の殺しはハンマーやノミを凶器とするツールボックス系で、冒頭のお風呂場における殺人シーンの白ブリーフとあいまって粘着質な変態性をかもしだしています。

事前の情報から(女をひっかけるための鉤とか)『悪魔のいけにえ』みたいな映画を想像していたのですが、実際の作品はむしろ『ダーティハリー』に近い印象を受けました。
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しょっぱい試合をやった坂田亘のごとく前田にボコボコに殴られ、前田ともども逮捕された草食ですが、韓国の司法では逮捕してから12時間以内に物証が見つからないとそれ以上拘留できず、ボコボコの顔面も警察に不利な証拠となり、翌朝に釈放されてしまいます。前田にボコボコにされた草食の顔が、殴り屋にボコボコにしてもらったアンディ・ロビンソンの顔とオーバーラップした人も少なくないでしょう。


また、前田がミジンを捜す場面では、赤いネオンに輝く教会の十字架が目印として現れます。『ダーティハリー』でも、十字架や教会のネオンが象徴的に使われていましたので、この辺はナ・ホンジン監督なりの、クリント・イーストウッドに対するリスペクトの表明ととれなくもないですね。


※以下、映画の結末に言及しています
























警察や前田の必死の捜査も届かず、けっきょく夜明けまでかかって自力で脱出したミジンでしたが(頭を何度もハンマーで殴られてたのに、よく生きてたと思う)、逃げ込んだタバコ屋に釈放された草食がやってきて、無残に殺されてしまいます。


この辺は、ソーヤー家から一度は逃げ出すものの助けを求めた相手がレザーフェイスたちのお父さんだったためまた捕まってしまう『悪魔のいけにえ』へのオマージュと取れなくもないといいますか。

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ただ、女刑事の尾行がついてたのになんで気付かれないのかなぁという疑問もあったのですが、ここでは、

  • 草食が店から出てこないのを怪しんだ女刑事が店内を覗き込む
  • タバコ屋の女将が殺されているのを発見する
  • 鍵がかかっていて入れず、携帯で本部に連絡
  • その隙に草食は脱出

というシークエンスがカットされているそうです。


そして、最終的には前田が草食のアジトを突き止め、庭に大量の死体が埋まり、水槽には女の生首が沈む恐怖の館で、家具や床を破壊しながら死闘を繰り広げます。この辺はちょっと『キル・ビルVol.2』でのユマ・サーマンとダリル・ハンナの闘いを思わせるものがなくもないというか。

でもあんなに漫画チックではなくて、ハンマーやゴルフクラブなど鈍器を駆使しての闘いはとにかく陰惨で、見るからに苦痛に満ちていましたけどね。主人公は前田に似てましたが、プロレス的なカタルシスも格闘技のストイックさも欠片もない、ハードコアな暴力が全篇に横溢したスゴい映画でした。