1976年のアントニオ猪木

柳澤健の『1976年のアントニオ猪木』が文庫で出ています。

完本 1976年のアントニオ猪木 (文春文庫)

完本 1976年のアントニオ猪木 (文春文庫)

二年前に単行本で出たときの内容に、韓国やパキスタンの章への大幅加筆や猪木へのインタビューを加え、「完全版」として刊行された本。ものすごい読み応えで、プロレスに特有の虚飾(ケーフェイ)を廃した文章ながら、それでもプロレスラー猪木の魅力を(良いところも悪いところも含め)描き出しています。必読の書です。


この本では、モハメド・アリとの戦いが中心となっていますが、ぼくとしてはウィリエム・ルスカの人生が興味深かったですね。
他を圧倒する実力を持ちながら、娼婦のヒモだという私生活のため東京オリンピックの代表になれず、ミュンヘンで二つの金メダルを取ってからも酒場のバウンサーとして生活していた、というストーリーは男の人生についてのサムシングを感じさせるものでした。第1回の芥川賞で、候補だった太宰治川端康成から「作者目下の生活について嫌な雲ありて」と私生活の乱れを指摘されて落選した、というエピソードを思わせるものがありました。

芥川賞を取らなかった名作たち (朝日新書)

芥川賞を取らなかった名作たち (朝日新書)