ワンチュクは義理許しであったな

昨日、ブータンワンチュク国王が講道館を訪問して、井上康生の技などを見学したとうちのブログでも書きましたが、それ以上のこともあったようで。


http://www.yomiuri.co.jp/sports/news/20111117-OYT1T00999.htm

ブータン初の柔道初段証書・黒帯、国王に贈る

 国賓として来日しているブータンジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王とジェツン・ペマ王妃が17日、柔道の総本山として知られる講道館(東京)を訪れた。


 ワンチュク国王夫妻は、井上康生氏ら五輪金メダリストと子供たちとの稽古を熱心に見学。国王にはブータンで初となる初段の証書と黒帯、柔道着一式が贈られた。

 2年ほど柔道に親しんだ経験があるという国王は、「柔道は勝負だけでなく、精神の鍛錬にもつながる。近々、ブータンにも柔道連盟を作りたい」と意欲を示すと、上村春樹講道館長は「青少年の教育に柔道をお役立てくだされば幸いです」と応じていた。

うわ、最悪。
2年ほど経験があるってんなら、ちゃんと昇段審査を受ければよかったのに。オレだって2年ちょっとの経験で黒帯は取ったんだから、不可能ではないでしょう。


上村さんもなぁ。権力者に媚びへつらいながら、青少年の教育だの精神の鍛錬だのもないもんだ。偉い人には段をあげるなんて態度が、真面目に修行する青少年にどれだけ悪影響を及ぼすか考えてほしいですね。

シグルイ 4 (チャンピオンREDコミックス)

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シグルイ』の虎眼流には、目録は「金許し」「義理許し」「術許し」の三種類があります。「金許し」は、多額の金子の寄付によって未熟と知りつつ目録を許すもの、「義理許し」は主従のあいだまたは何かの情実のために剣技充分ではなくとも免許を与えるもの、純粋にその技量によって与えられるものが「術許し」でした。


「募金額に応じて黒帯進呈!?」極真・松井館長だけじゃない……空手界”闇のマネーゲーム”事情|日刊サイゾー
ある空手流派では、道場を新築するために寄付を募り、多額の寄付をした道場生は茶帯から黒帯に昇段させたこともあったそうです。これはまさに「金許し」ですが、今回の講道館は「義理許し」ですね。正力松太郎が亡くなったときにも、講道館は八段から十段へ昇段させましたがこれも「義理許し」です。

原発・正力・CIA―機密文書で読む昭和裏面史 (新潮新書)

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ちなみに、ロシアのプーチン首相が大統領時代に来日し、やはり講道館で稽古をやったことがありました。プーチンは柔道とサンボの達人であり、柔道は五段を持っています。こちらは本物の「術許し」で、講道館から六段の「義理許し」を贈られてもこれを辞退したというから、武道家としては本物です。

プーチンと柔道の心

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このように特権階級に媚びを売るのは、江戸時代の武道家が大名に召抱えられようとして「義理許し」を乱発していた江戸時代からの伝統なのかもしれません。

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

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増田俊也さんは『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』文中で何度も「今の柔道の段位は昔より軽い」と繰り返していますが、偉い人には見学しただけで授与しちゃうんだから、そりゃ軽いって言われても仕方ないですな。


ちなみに、わが国の野田佳彦総理大臣も、柔道二段の「術許し」です。いちど、プーチン首相と野田首相の勝負を見てみたいですね。ワンチュク国王も初段を授与されたからには、一回ぐらいは試合をやってもらえないでしょうか。アントニオ猪木との異種格闘技戦でもいいですから。

完本 1976年のアントニオ猪木 (文春文庫)

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