怪奇事件はなぜ起こるのか

小池壮彦の『怪奇事件はなぜ起こるのか』を買ってきたッス。

怪奇事件はなぜ起こるのか

怪奇事件はなぜ起こるのか

この人の本はよく読んでいるのですが、今回は、いつもの心霊事件解明にとどまらず、歴史的事件を陰謀説を交えて分析し、日本社会の暗部を描き出す、かなりエキサイティングな本になっています。


ただし、これは「不思議ナックルズ」の連載をまとめた単行本なので、掲載誌の性格を考慮しながら読む必要はあると思いますね。


昨年の一月に起こった、渋谷区歯科医一家バラバラ殺人事件を扱う章では、被告となった兄が妹を殺害したときの供述を、「木刀で頭蓋骨を陥没させていながら、それから一時間も憎まれ口を叩き続けたのは不自然」と疑問を呈するのはいいんですが、

普通に考えて、木刀で力いっぱい頭を殴れば、かなりのダメージになる。宮本武蔵佐々木小次郎を木刀による一撃で倒した。

と書いちゃってるんですね。そんな史的根拠の薄い話を引き合いに出すのは、この人の芸風からいってかなり悪ノリの部類に入ると思うんですよね。



なので、この本で展開されている、

  • 体感治安を悪化させるため、プロの事件屋が殺人事件を演出している
  • 長州藩の忍者グループにルーツを持つ闇の実行部隊が、松岡利勝農水相エイチ・エス証券の野口副社長、読売新聞の記者(口に靴下を詰め込んだ上からガムテープを貼り、後ろ手に手錠をして死んでいた人)を殺害し、「自殺」として処理させている

という理論も、筆者がどこまで本気で書いてるのか、いちおうの疑問符をつけて読むのが正しい鑑賞態度なんじゃないかと。


明治天皇は実は孝明天皇の子ではなく南朝の末裔で、明治維新南朝革命による皇位簒奪であった、なんて説まで紹介していますが、そこまで行くともう伝奇小説の世界ですからね。

山田風太郎の『柳生十兵衛死す』では、室町時代の初代柳生十兵衛南朝の残党と戦いながら、足利義満皇位簒奪の陰謀を阻止しようとする(しかも、慶安の二代目十兵衛とタイムスリップで入れ替わりながら)のですが、いっそそこに慶応の三代目十兵衛(身代わり明治天皇を守護する)と昭和の四代目十兵衛(熊沢天皇を守護する)も入れたら、収拾がつかなくなって面白いかもしれませんね。