こわれもの

日本最大の暴力団山口組が分裂するというので警察や政界まで巻き込み、不穏な空気が拡がっています。


山口組 傘下13団体を絶縁や破門の処分に NHKニュース 山口組 傘下13団体を絶縁や破門の処分に NHKニュース

分裂する動きがある国内最大の指定暴力団山口組が、傘下の13の団体の組長を「絶縁」や「破門」の処分にしたことが警察当局への取材で分かりました。警察当局は、離脱しようとした動きに対する処分とみて、新しい組織の立ち上げや対立抗争への発展の動きがないか警戒を強めています。
神戸市に総本部がある指定暴力団山口組は、去年の時点で構成員や準構成員などが2万3000人余りに上る国内最大の暴力団ですが、警察当局によりますと、分裂する動きがあるということです。
警察当局へのその後の取材で、山口組が、傘下の団体で最も組員などの数が多い神戸市に本部がある「山健組」など、関西を中心とした13の団体の組長を「絶縁」や「破門」の処分にしたことが分かりました。このうち、「山健組」など5団体の組長が「絶縁」の処分を受けたということです。
組長が処分を受けた団体は、山口組の現在の組長の出身母体で名古屋市に本部がある「弘道会」の組織運営などに反発していたとみられ、山口組を離脱して新たな組織を作ろうとしているという情報があるということです。
警察当局は、こうした動きに対する処分とみて、新しい組織の立ち上げや対立抗争への発展の動きがないか情報収集を進めるとともに、団体の事務所などの警戒を強めています。

やくざ社会での「破門」とか「絶縁」というのは一般社会でいう意味とは違い、抗争開始の合図みたいなものなので、治安を担う警察としては色めき立つのも当然というわけです。


思えば、日本史上最大のやくざ戦争だった山一抗争(1984年〜86年ごろ)にしても、三代目の田岡一雄組長が亡くなったとき、跡目を継ぐと目されていた山本健一若頭(山健組組長)が、田岡組長の没後わずか半年で若くして病没したため、後継者をめぐって内部対立が深まったために勃発したものでした。


今回の騒動は、山口組では外様勢力のはずの弘道会と、六代目の司忍組長が組織運営を主導しているため、それに反発した、古くからの本家直系団体である山健組が離脱するというもの。田岡一雄→山本健一→渡辺芳則(二代目山健組組長、五代目山口組組長)というラインを「正統」とみなす向きが、外部から想像するより強いということかもしれません。伝奇小説ファンなら、尾張柳生と江戸柳生の意地の張り合いを思い浮かべるとわかりやすいでしょう。でも別に柳生宗矩柳生利厳が闘ったという史実はないんですけどね。



プログレクラスタなら、80年代のイエス分裂を思い浮かべると、すんなり理解できると思います。

こわれもの

こわれもの

エスはメンバーの変動が激しいバンドで、代表作『こわれもの』『危機』のラインナップ(ジョン・アンダーソン、スティーヴ・ハウ、クリス・スクワイア、リック・ウェイクマン、ビル・ブルーフォード)は有名ですが、この面子が揃っていた時期は短く、メンバーチェンジが相次ぎ、1980年には“ラジオ・スターの悲劇”をヒットさせたばかりのバグルスを吸収するなど迷走した末に活動休止。ちょうどこのころ、大物バンドが相次いで解散・活動休止していたため、マネージャーのブライアン・レーンはギタリストのスティーヴ・ハウジョン・ウェットンカール・パーマーと引き合わせてスーパー・グループ、エイジアを編制し、洗練されたサウンドで商業的に大成功をおさめます。いっぽう、ジョン・アンダーソンとクリス・スクワイアが残されたイエスには、南アフリカ出身の天才マルチ・プレイヤー、トレヴァー・ラビンが加入し、新生イエスも『ロンリー・ハート』で世界的大ヒットをおさめました。

ロンリー・ハート

ロンリー・ハート



しかし、後から加入したラビンが音楽性を主導して、商業的路線をいくことに、旧来のメンバーであるアンダーソンは不満があったようで、1988年にバンドを脱退。旧メンバーに声をかけ、「元祖イエス」ともいうべき新バンド「アンダーソン・ブルーフォード・ウェイクマン・ハウ」を結成するに至ります。

閃光

閃光



アルバムのアートワークも、『こわれもの』『危機』と同じロジャー・ディーンが手掛けるという徹底ぶりで、商業的にもヒットしましたが、ライブではイエスの楽曲も演奏していたため、当然「本家イエス」(当時は「西海岸イエス」などと呼ばれた)との間では裁判沙汰にまで発展しましたが、けっきょくはブライアン・レーンの仲介により両バンドが合流。イエスはツイン・ギター、ツイン・キーボード、ツイン・ドラムの8人体制で世界ツアーを周り、まぁ一種のお祭り騒ぎといいますか、要するに商業的に成功をおさめることになったのでありました。というか有能すぎるだろブライアン・レーン。



その後は、アルバムやツアーのたびに違うメンバーが集結する流動的プロジェクトとなり、イエスに参加していないメンバーもそれぞれ組んで活動するなどしていましたが、今年になって、唯一バンドにずっと残っていたベーシストのクリス・スクワイアが白血病のため死去。残されたメンバーは活動継続をアナウンスしていますが、バンドのイメージを決定づけていたスクワイアの穴を埋めるのは容易でないでしょう。
(日本のアニメファンには、『重戦機エルガイム』のギャブレット・ギャブレーのモデルになった人物として知られている)


要するに、


と思えば、わかりやすいです。これで「わかりやすい」と感じる人はたぶんあんまりいないと思うけど。


エスのほうは、ブライアン・レーンの尽力もあり、やはりミュージシャンはミュージシャンどうし理解しあえるものでしたが、やくざの場合はそうはいかんでしょうなぁ。日本の暴力地図が大きく塗り替えられる、歴史的な事件になりそうです。剣呑剣呑。