冒険小説オタが非オタの彼女に冒険小説世界を軽く紹介するための10冊
まあ、どのくらいの数の冒険小説オタがそういう彼女をゲットできるかは別にして、
「オタではまったくないんだが、しかし自分の冒険小説趣味を肯定的に黙認してくれて、
その上で全く知らない冒険小説の世界とはなんなのか、ちょっとだけ好奇心持ってる」
ような、ヲタの都合のいい妄想の中に出てきそうな彼女に、冒険小説のことを紹介するために
読ませるべき10冊を選んでみたいのだけれど。
(要は「脱オタクファッションガイド」の正反対版だな。彼女に冒険小説を布教するのではなく
相互のコミュニケーションの入口として)
あくまで「入口」なので、時間的に過大な負担を伴う10巻、20巻の大作は避けたい。
できれば単独作、長くても2部までにとどめたい。
あと、いくら冒険小説的に基礎といっても古びを感じすぎるものは避けたい。
映画好きが『カリガリ博士』は外せないと言っても、それはちょっとさすがになあ、と思う。
そういう感じ。
彼女の設定は
冒険小説知識はいわゆる「名作アニメの原作」的なものを除けば、イアン・フレミング程度は読んでいる
サブカル度も低いが、頭はけっこう良い
という条件で。
まずは俺的に。出した順番は実質的には意味がない。
ソロモン王の洞窟(H・R・ハガード)
まあ、いきなりここかよとも思うけれど、「アラン・クォーターメイン以前」を濃縮しきっていて、「アラン・クォーターメイン以後」を決定づけたという点では
外せないんだよなあ。長さも一巻完結だし。
ただ、ここでオタトーク全開にしてしまうと、彼女との関係が崩れるかも。
この情報過多な作品について、どれだけさらりと、嫌味にならず濃すぎず、それでいて必要最小限の情報を彼女に
伝えられるかということは、オタ側の「真のコミュニケーション能力」の試験としてはいいタスクだろうと思う。
鷲は舞い降りた(ジャック・ヒギンズ)、ナヴァロンの要塞(アリステア・マクリーン)
アレって典型的な「オタクが考える一般人に受け入れられそうな冒険小説(そうオタクが思い込んでいるだけ。実際は全然受け入れられない)」そのもの
という意見には半分賛成・半分反対なのだけれど、それを彼女にぶつけて確かめてみるには
一番よさそうな素材なんじゃないのかな。
「冒険小説オタとしてはこの二つは“小説”としていいと思うんだけど、率直に言ってどう?」って。
海底軍艦(押川春浪)
ある種の冒険小説オタが持ってる南方への憧憬と、横田順彌推薦のオタ的な考証へのこだわりを
彼女に紹介するという意味ではいいなと思うのと、それに加えていかにもナショナリズム的な
「童貞的なださカッコよさ」を体現する柳川龍太郎
「童貞的に好みな軍人」を体現する桜木大佐
の二人をはじめとして、オタ好きのするキャラを世界にちりばめているのが、紹介してみたい理由。
甲賀忍法帖(山田風太郎)
たぶんこれを読んだ彼女は「『SHINOBI』だよね」と言ってくれるかもしれないが、そこが狙いといえば狙い。
この系譜の作品がその後たいへん続いたこと、これが日本では大人気になったこと、
現代の日本なら漫画になって、それがアニメ化されてもおかしくはなかったのに、
日本国内であんな映画が作られてしまったこと、なんかを非オタ彼女と話してみたいかな、という妄想的願望。
水滸伝(北方謙三)
「やっぱり北方謙三は”ソープへ行け”の人だよね」という話になったときに、そこで選ぶのは『弔鐘はるかなり』
でもいいのだけれど、そこでこっちを選んだのは、この作品にかける北方の思いが好きだから。
断腸の思いで削りに削ってそれでも19巻9500枚、っていう尺が、どうしても俺の心をつかんでしまうのは、
その「捨てる」ということへの諦めきれなさがいかにもオタ的だなあと思えてしまうから。
北方『水滸伝』の長さを俺自身は冗長とは思わないし、もう削れないだろうとは思うけれど、一方でこれが
吉川英治や柴田錬三郎だったらきっちり4巻以内にしてしまうだろうとも思う。
なのに、各所に頭下げて迷惑かけて19巻を作ってしまう、というあたり、どうしても
「自分の物語を形作ってきたものが捨てられないオタク」としては、たとえ北方がそういうキャラでなかったとしても、
親近感を禁じ得ない。作品自体の高評価と合わせて、そんなことを彼女に話してみたい。
宝島(R・L・スティーヴンソン)
今の若年層で出崎アニメ見たことのある人はそんなにいないと思うのだけれど、だから紹介してみたい。
AIRよりも前の段階で、出崎統の哲学とかアニメ技法とかはこの作品で頂点に達していたとも言えて、
こういうクオリティの作品がテレビアニメでこの時代にかかっていたんだよ、というのは、
別に俺自身がなんらそこに貢献してなくとも、なんとなくアニメ好きとしては不思議に誇らしいし、
いわゆるKey劇場用アニメでしか出崎を知らない彼女には見せてあげたいなと思う。
深夜プラス1(ギャビン・ライアル)
ライアルの「目」あるいは「人物づくり」をオタとして教えたい、というお節介焼きから見せる、ということではなくて。
「終わらない要人警護を毎日生きる」的な感覚がオタには共通してあるのかなということを感じていて、
だからこそカントンの使う拳銃はモーゼルミリタリー以外ではあり得なかったとも思う。
「警護化した日常を生きる」というオタの感覚が今日さらに強まっているとするなら、その「オタクの気分」の
源は深夜プラス1にあったんじゃないか、という、そんな理屈はかけらも口にせずに、
単純に楽しんでもらえるかどうかを見てみたい。
餓狼の弾痕(大藪春彦)
これは地雷だよなあ。地雷が火を噴くか否か、そこのスリルを味わってみたいなあ。
こういう要人処刑小説風味のパラノイアをこういうかたちで文章化して、それが非オタに受け入れられるか
気持ち悪さを誘発するか、というのを見てみたい。
涼宮ハルヒの憂鬱(谷川流)
9冊まではあっさり決まったんだけど10冊目は空白でもいいかな、などと思いつつ、便宜的にハルヒを選んだ。
アラン・クォーターメインから始まってハルヒで終わるのもそれなりに収まりはいいだろうし、アニメ化されたときの主題歌は「冒険でしょでしょ」と
なった作品でもあるし、紹介する価値はあるのだろうけど、もっと他にいい作品がありそうな気もする。
というわけで、俺のこういう意図にそって、もっといい10冊目はこんなのどうよ、というのがあったら
教えてください。
「駄目だこの北上次郎は。俺がちゃんとしたリストを作ってやる」というのは大歓迎。
こういう試みそのものに関する意見も聞けたら嬉しい。