ドブ川に死す
水木しげるの『ドブ川に死す』という短編があります。
- 作者: 水木しげる
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1994/11/04
- メディア: 文庫
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あげくの果てに、つげが失踪してしまうに至ったため、水木サンは他のプロダクションを紹介して豊川を追い出します。
ところが、何日かすると豊川はのっそりと帰ってくるのでした。
「だめです。もう、徹夜でやった連中を、あくる日、兄貴がきてたたき起こすんです。まるでカンゴクですよ」
というのですが、この”兄貴がきてたたき起こすんです”という、ぶっきらぼうなネームが水木サンらしくて素晴らしい、と大泉実成さんも言っておられました。
怖い話の本―「心の闇」をフィールドワークした、超ホラー・ノンフィクション! (別冊宝島 (268))
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 1996/07
- メディア: ムック
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結局、豊川は他の作家のところへいくものの長続きせず、新宿でフーテンの仲間入りをして野宿生活を送り、最期は睡眠薬を飲んで眠っているうちにドブ川に落ち、溺死します。
「まるで虫けらが死んだように、誰もかえりみるものもなかった…」
とこの作品は結ばれます。
んで、その「兄貴」ですけども。
ぼくはこのお正月の間、宮崎勤関連の本を読み返したり、『堕靡泥の星』関連の本を読んだりと猟奇三昧の日々だったんですが、佐藤まさあきの自伝『「堕靡泥の星」の遺書』も読んでたんです。
- 作者: 佐藤まさあき
- 出版社/メーカー: 松文館
- 発売日: 1998/10
- メディア: 単行本
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この本に、水木プロを追い出されて佐藤プロにやってきた、生意気な新人のエピソードも載ってるんですね。
ここでは、
その男が帰って水木に言うには、「あそこは地獄プロです。夜中の4時まで仕事をさせられて、やっと眠ったと思うと朝の9時にマネジャーの兄貴が叩き起こしにきます。あそこではとても身体がもちません。もう一度ここに置いてください」と言ったそうである。
さすがの水木プロの持て余し者も、佐藤プロでは通用しなかったようだ。それにしても根性がない。うちでは近藤*2も村松*3も川崎*4も文句を言わず、平気で仕事をしていたものを…
余談だがこの男は、のちにフーテンの仲間に入り、ある朝、新宿御苑の池の中に落ちて死んでいたそうである。シンナーかなにかの吸いすぎということだった。
と、ありました。
ここでいう「兄貴」というのは、佐藤氏の実兄で当時佐藤プロのマネジャーを務めていた、記本隆司氏のことですね。
水木サンのネームだけだと、さぞガチムチの兄貴がやってくるんだろうなぁと想像力を刺激されますが、実際の姿を見ても、精悍な坊主頭でなかなか迫力のある人でした。
その後、佐藤氏はアシスタントたちと同居するのですが、そのときも、先生が起きてもアシスタントが起きてこず、怒り心頭で叩き起こしにいくと、若いアシの緒方*5が、パンツをずらしてちんこを握ったまま眠っているのを見て、気まずくなってソーッと出ていったりしていたといいますから、先生とアシというのは漫画家にとって永遠のテーマなんだろうなぁと思ったりもしていた、ぼくの33歳のお正月なのでした。
(なんだこのオチ)