歌姫受難

四月から、伊坂幸太郎原作『重力ピエロ』の映画が公開されるので、原作小説を読んだッス。

重力ピエロ (新潮文庫)

重力ピエロ (新潮文庫)

この映画は、『アヒルと鴨のコインロッカー』と同じく仙台を舞台にしており、宮城県内でロケされています。名取市のショッピングセンター「イオンモール名取エアリ」ではロケ地マップなどを展示したパネル展をやっています。


http://natori-airy.aeonmall.com/event/list.php


まぁ、公開されてもいないのにロケ地めぐりをしても仕方ないんですけどね。


ところで。


※以下ネタバレ


























『重力ピエロ』では、母親がレイプされて生まれた子どもが、暴行魔である実父に復讐をするわけですが。


実はこのテーマは、佐藤まさあきの『堕靡泥の星』でも出てくるんですよね。

『堕靡泥の星』では、脱獄囚にレイプされた母親が産んだ息子である神納達也が、彼を虐待した養父である神納教授を謀殺して莫大な遺産を相続し、その秘密を嗅ぎつけて接触を図ってきた実父の蛭川源平をも死に追いやります。


達也はこの物語において、自らに流れる「犯罪者の血」というものをしきりに強調し、暴行・殺害への暗い欲望に忠実に行動していきます。


しかし、その行動の裏には狂おしいばかりの愛への憧憬があり、父に憎まれ、母に捨てられた(夫からの激しい虐待に耐えかね、達也が幼いころに自殺している)ことが彼の精神を大きく捻じ曲げていることが読み取れます。


そして、その原因となった”「犯罪者の血」が流れている自分”に対する激しい嫌悪こそが、彼を犯罪に駆り立て、破滅に向かって突き動かしている本当の理由だと思われるんですね。



『重力ピエロ』では、レイプされた母の産んだ息子である春は、母と養父、兄から豊かな愛情を受けて育ち、その家族の絆を描くことがこの作品の主眼となっています。


しかし、春は自分を生み出すことになった「性」というものを激しく嫌悪しており、実父を殺すことも、自分に流れる「性犯罪者の血」を葬り去って、病で死に瀕している養父への愛情をより確かなものにするためのものなんですね。



「自己嫌悪」という同じ地点から出発して、「実父殺害」という同じような行動をしていても、主人公が愛情を受けて育ったか否かによって、そこで表現される情動はまったく反対のものになるということが、この2作品によってわかると思います。


まぁ、その辺はフィクションの人物に対する評価であって、あんまり「オリは愛情を受けられなかったんだYO!」とか強調されても困るんですけどね。

電波男 (講談社文庫)

電波男 (講談社文庫)