ベトナム戦争とバックベアード

『鬼太郎のベトナム戦記』が復刻されてたので、買ってきたんです。

もとは昭和43年に「宝石」に連載された作品。佐々木守福田善之が原作に参加しているので、鬼太郎たちがベトコンに協力して米軍と戦うというゴリッゴリの左翼系漫画になっています。『ワイルド7』や『サイボーグ009』にもベトナム戦争篇はありますが、それらの作品では戦争に深入りはしなかったのに対し、こちらでは明確に米軍を敵として描くという思い切りを見せています。かつ北ベトナムを支援している旧共産圏の指導者たち(コスイギン、毛沢東宮本顕治金日成ホー・チ・ミンら)も戯画化されており、素晴らしくアナーキーな仕上がりです。指導者たちがケンカしている様子を見た砂かけ婆「あきれた! 黒寛の気持ちもよくわかる」革マル派への接近とも取れる発言をしているあたりもぶっきらぼうで味わい深い。
中核VS革マル(上) (講談社文庫)

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ほかにも、前年にボリビアで死んだはずのチェ・ゲバラが出てきたり(正体はねずみ男の変装だけど)、子泣き爺が原潜スコーピオンを沈めたり、砂かけ婆が狙撃兵の目に砂をかけて司令部を誤射させたりと、実際にあった事件を妖怪の仕業として取り入れているのも面白い。ベトナムの歴史に言及して日本人を悪役にするあたりは、保守派の人から見れば噴飯ものかもしれませんがまぁ時代の空気ってやつでしょう。佐々木守だし。


岩佐陽一による1999年のインタビューも採録されており、執筆当時のことを訊かれた水木サンが「当時はベトナム戦争をよく知らなかったんですよ」「そりゃあんた、30、40年前ですからね。記憶があんまりないですよ」「ベトコンがね、あのベトナム人の意思だと思ったもんだから……ついベトコンの方を応援してたけども、いまから考えると、ねェ?」「ふぇっへへへへへ」と答えているあたりも実にアナーキーで素晴らしい。


表題作のほか、『妖怪ロッキード』や『大ボラ鬼太郎』といった風刺系ギャグ作品も収録されており、鬼太郎の宿敵としておなじみのバックベアードが味方として出てくるなど、水木サン特有のノンシャランなユルさが堪能できる一冊でした。
このロリコンどもめ! - ロリコンジェネレータ - はてなセリフ

1000の小説とバックベアード (新潮文庫)

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