消えた、そして現れたマンガ家

消えたマンガ家―ダウナー系の巻 (新潮OH!文庫)

消えたマンガ家―ダウナー系の巻 (新潮OH!文庫)

マンガ界の歴史には、その行方が都市伝説となっている、消えた作家が数多く存在します。


いわく、宗教にはまって書けなくなった。
いわく、精神を病んで入退院を繰り返している。
いわく、編集との折り合いが悪くて書けないでいる。


作家が顔を見せなくなると、ファンはいろいろな憶測をするものです。


そんな中にあって、桜玉吉という作家の存在は稀有といっていいでしょう。

御緩漫玉日記 (1) (Beam comix)

御緩漫玉日記 (1) (Beam comix)

ファミ通に連載された「しあわせのかたち」で人気を獲得したこの方は、そのキャリアの中で何度かうつ病によって「消え」、そして復帰を繰り返すという変則的な創作スタイルをとっています。
この方の漫画は、自分及び身の回りの人物を主人公として登場させる日記漫画が主なので、消える直前の作品は読むのが本当にツラいです。*1


このほど発売されたこの「御緩漫玉日記」は、およそ一年半という長めのブランクを経て*2発表された作品。
最初の2回は、本格連載に先駆けたプレ連載としてコミックビームに掲載されたものですが、ここでいきなり前作からのおなじみキャラとのお別れがあり、普通の漫画では考えられない展開にはリアリティ漫画ならではの迫真力を感じさせられます。

本格連載が始まった第3話以降は、内容がリニューアル。時代をさかのぼって人物の名前を仮名に変え、これまでの作品には登場していない、架空と思われる女性アシスタント「トクコ」*3を登場させ、「おっとりエロ」という新境地に挑む意欲作になっています。

と思う間も無く、第6話でまた「現在篇」に戻り、「トクコ篇」とほぼ同じ登場人物が今度は実名で登場します。なんともややこしい。

以降はこの「トクコ篇」と「現在篇」が混在するという難解な構成になっており、はっきり言って「しあわせのかたち」から読んでないと理解できないです。*4
この人の漫画は全部ひとつの作品と考えるべきですね。


マンガ家には「私小説系」とでもいうべき一派がありますが、桜玉吉はその代表的作家と言っていいでしょう。

*1:特に「幽玄漫玉日記」最終巻はすごい

*2:その間にも4コマなど細かな仕事はあり

*3:「巨乳メガネっ娘」という萌えの基本に忠実なキャラ

*4:以前の作品で見たようなエピソードが断片的に登場する