カンフー版パラリンピック?
アメリカのコメディ映画を見ていると、身体障害者をギャグのネタにすることがあって、ちょっとギョッとします。
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今の日本ではこういうネタはまずお目にかかれませんが、昔は障害者ヒーローというジャンルがありました。
古くは、隻腕隻眼の丹下左膳から始まり、勝新太郎演ずる盲目の座頭市、兄の若山富三郎による唖侍・鬼一法眼、中村敦夫がジュディ・オングの押す箱車に乗って鞭をふるう「おしどり右京捕物車」*1などなど。
「座頭市」のヒットは香港にも影響を与え、盲目というハンデを隻腕に置き換えた「獨臂刀」という作品が製作され、さらに中国の片腕剣士と市が闘う「新座頭市・破れ!唐人剣」という作品まで作られています。*2
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で、この作品で勝新と闘ったジミー・ウォングは、剣士ものからカンフーものにシフトチェンジして台湾で「片腕ドラゴン」を監督・主演し、さらに続編として、この「片腕カンフー対空とぶギロチン」を制作します。
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これは障害者アクションものの極北と言えます。クラクラします。
清朝政府は、漢民族の復権を願う片腕ドラゴンを倒すため、盲目のギロチン使い、封神を遣わした。彼は、前作で倒された悪の拳法家の師匠であり、弟子の仇討ちという意味もあった。
政府は片腕ドラゴンをおびき出すために武道大会を開催し、そこにも殺し屋として世界の武道家を派遣する。タイのムエタイ使い(下品)、インドのラマ僧(ヨガの達人で、手が伸びる)*3、日本の侍(「木枯らし紋次郎」風)である。
「自分は武道家だから富や名声には興味ない」と出場を辞退する片腕ドラゴンだが、見学のために弟子を伴って観戦に来る。そして大会が始まり、熱戦が繰り広げられる。
そこに封神が現れた。彼はギロチンを振るって片腕の男を片っ端から殺し、会場に爆弾を投げて去った。
危機に陥った片腕ドラゴンは一時山奥に身を隠し、対ギロチンの秘策を練る。
そして、準備万端整った片腕ドラゴンと殺し屋たちの対決が始まった・・!
まず気になるのは「空とぶギロチンってどんなんだ?」というものでしょう。これは、「キル・ビルvol.1」で栗山千明が持っていた鉄球の元ネタになったもので、鎖の先に刃のついた帽子みたいのがあって、それを投げて標的の頭にかぶせて、引っ張ると首が取れるというなんともトホホなものです。*4これを投げるときは「バキュ〜ン」と、なぜかマカロニウエスタンの銃声みたいな音がします。
映画の冒頭はこのギロチン使いのジジイの型稽古のシーンから始まるのですが、技を決めるたびになぜか「ドリュッ!ドリュッ!」という効果音が出ます。こういうSEの使い方もステキです。このシーンの異様なグルーヴは「江戸川乱歩全集・恐怖奇形人間」での土方巽の波打ち際ダンスに匹敵するものがあります。
そして武道大会。ここに登場する無国籍格闘ワールドは後の格ゲーの世界観に大きな影響を与えています。審判のオッサンが「勝負あり!」を宣告するときは、「パラパラパ〜ン♪」というトランペットのジングルとともに扇子を開くと「勝」と大書してあるというギャグが炸裂。昨年映画館で見たときはここで大爆笑が起こりました。
満を持して出撃する片腕ドラゴン。この闘いぶり、すごいです。「名声には興味がない」というだけあって、これっぽっちも正々堂々としてません。黒社会の顔役といわれるジミー・ウォングならではの、全編これ「勝ちゃあいいんだよ!」という情無用殺法全開です。
街中でワイクーを踊ってムエタイをおびき出すと、山奥に用意した隠れ家で対決します。この隠れ家、床が鉄板になっていて、周りで火を燃やすと足の裏が焼けるという仕掛けになっています。ムエタイボクサーは裸足ですからたまったものではありません。窓から逃げようとすると、弟子たちが槍を構えているという脱出不可能システムも完備。あわれムエタイボクサーは足の裏を黒焦げにして撲殺されます。
続いてギロチンとの対決。これはさらに凄いです。まずは青竹でギロチンを防御して、刃をボロボロにします。それから棺桶屋で闘うのですが、盲人相手にブービートラップを仕掛けまくっています。通路に爆弾を仕込み、あちこちから斧が飛んできて目の不自由な老人の体にグサグサ刺さるという残酷でグロテスクな描写(笑)
最後に必殺の片腕鉄拳をぶち込むと、ストレートパンチなのになぜか真上に吹っ飛び、屋根をぶち破って軒先に落ちるギロチン使い。その体を店先の棺桶で受け止めるというラストはステキの一語です。
「カンフーハッスル」が意外に残酷だったという人がいますが、カンフー映画というのはもともとこういう残酷なものだったのですね。ちなみにDVD字幕ははてなダイアリーでもおなじみの町山智浩さん。わたしにとっては師匠のような方です。
・・・実は、障害者カンフーものには「ミラクルカンフー阿修羅」という、手の不自由な人と足の不自由な人(両方とも本物)が合体して闘うという大怪作もあるのですが、さすがにこちらは取り上げる気にはなれませんでした。