年末の漫画あれこれ

スポーツ映画ベストテンの話ばっかりしている間に、漫画をいろいろ読んでおりました。


このマンガがすごい! 2012

このマンガがすごい! 2012

今年の「このマンガがすごい!」一位は、オトコ部門『ブラック・ジャック創作秘話』オンナ部門『花のズボラ飯』と秋田書店が占めたそうですね。
花のズボラ飯

花のズボラ飯

両作品とも、どちらかといえば垢抜けない絵柄ですが、こういうスタイリッシュじゃないやつが今年はウケたんですね。


ところで、『花のズボラ飯』の作画家である水沢悦子は「プロフィール非公開」ということになっているようですが、「うさくん」とどう使い分けてるんですかね。コミックLO唯一の非エロ作品『マコちゃん絵日記』の新刊(茜新社はこの作品のためだけに非成人指定の「FLOWコミックス」というレーベルを立ち上げている)も出てるんですが、そちらには「このマンガがすごい! 一位受賞作家」とはうたってありませんでした。

マコちゃん絵日記 4 (FLOW COMICS)

マコちゃん絵日記 4 (FLOW COMICS)

成人漫画誌ではうさくん名義、一般誌では水沢名義なのかと思いきや、幼年誌の「コロコロG」ではうさくん名義で描いてるので(中学生がエロ本を拾いに行く漫画だけど)そういう使い分けでもないようですね。この辺はなにか大人の事情があるのかもしれませんが、『マコちゃん絵日記』4巻の中には「漫画家のなんとか先生とかんとか先生は実は同一人物なんだってー」というネタが出てくるので、ちょっと味わい深いものがありました。あと、巻末にお定まりの「この作品はフィクションでありうんぬん」という断り書きがあるのですが、「実在の人物、団体、事件、思想等には一切関係ありません」と一味ちがう文面になっています。茜新社の漫画ってみんなそうなってるんでしょうかね。ロリコンは思想じゃないと思うんですけど。


「このマン」の権威をまったく利用していない『マコちゃん絵日記』と対照的に、オビに大々的に「このマンガがすごい!9位入賞」をうたっていたのが『めしばな刑事タチバナ』です。

実を言うとこの作品はまったくノーマークで、深町秋生先生が取り上げるまで知らなかったのですが、近ごろはやりのB級グルメ漫画の中でもとくにマニアック度が高く、外食系からインスタント系まで、実在するチェーン店や商品をバンバン取り上げてはトリビアルに検証していく内容。漫画家の名前も初めて聞きましたが画力はかなり高く、キャラクターの描き分けがすごくしっかりできているのもポイントが高いです。うさくんはキャラクターの顔の持ちパターンが少なく、似たような人が多く出てくるのと対照的です。で、こちらの断り書きは、「この作品はフィクションですが、登場する店名などは実際の取材に基づいて構成しています」になっています。ただ、このスタイルだと基本的に食べ物を褒めるスタンスでしか描けないという制約はあるでしょうね(そう考えると、実在する店の主人にアームロックをかけた『孤独のグルメ』は、サブカル漫画がサブカルの中だけで消費されていたあの時代にしか成立し得ない、つくづく貴重な作品である)。主人公は刑事ですがその知識を利用して事件を解決するわけではなく、『美味しんぼ』みたいな無理のある展開にはならないところも好印象です。


これとは対照的に、無理のある展開になってきたのがヤマザキマリの『テルマエ・ロマエ』4巻。

テルマエ・ロマエ IV (ビームコミックス)

テルマエ・ロマエ IV (ビームコミックス)

3巻までは単発エピソードの積み重ねできたこの作品ですが、4巻では連続ものになり、ルシウスが現代の日本にタイムスリップしたまま帰れなくなってしまいます。そうなると、言葉の問題が大きくなるところですが、ルシウスが今回タイムスリップしてきた温泉旅館に、偶然、古代ローマの熱狂的マニアでラテン語を流暢に話す女性がいるというのはちょっと都合が良すぎるんじゃないかと。まぁそこまでリアリティを求めるような漫画ではないことは分かっているのですが、さすがに「古代ローマの浴場技師が現代日本にタイムスリップする」というのは長篇化するには苦しいアイデアだと思わざるを得ないといいますか。ルシウスがこの旅館へやってきたことに何か運命的な必然性がある、ということにならないとちょっと厳しいかなあ。


あと、買い遅れていましたが高遠るいの『ミカるんX』完結8巻も読んでおったんです。

ミカるんX 8 (チャンピオンREDコミックス)

ミカるんX 8 (チャンピオンREDコミックス)

これ、何気にものすごい内容の漫画で、変身ヒロインが全裸で戦うという一見イロモノでありながら、最終巻では宇宙と生命と意思の関係性やヒューマニズムの超克といったごついテーマをぶち込んで、巨乳・百合・ヘンタイ風味で煮染めた、よっぽどのスキモノでなければ消化しきれない作品です。「このマンガがすごい!」近辺ではほぼ無視されていたようですが、『魔法少女まどか☆マギカ』や『輪るピングドラム』といった「運命」をテーマにした作品がヒットした今年のおたく界隈を鑑みるに、もっと注目されてもいい漫画だったと思うんですがねぇ。作品にノリきるためのハードルが高すぎたのかもしれません。


んで、良くも悪くも今年の漫画ファンの心をぶん回し続け、「このマン」では6位に入った『どげせん』も一応の完結。

どげせん 3 (ニチブンコミックス)

どげせん 3 (ニチブンコミックス)

「史上初の土下座漫画」という誰もが(゚Д゚)ハァ?と思うコンセプトではじまり、板垣恵介のクセの強いネームと笠原倫の独特の画力のコラボでオヤジ漫画ファンの度肝を抜き続けたあげく、「土下座観の違い」という史上に例を見ない理由でコンビ解消に至った、この漫画のたどっている運命そのものがどの漫画より面白い作品でした。板垣恵介漫画ゴラク誌上にソロで『謝男(シャーマン)』という、『どげせん』と同じ高校教師が主人公の土下座漫画を連載開始し、笠原倫も単独で『どげせん』を続行すると一度はアナウンスしながらその目途は立っていません。この辺もプロレス的なアングルの盛り上げなのかもしれませんが、まだまだ目が離せません。というかそろそろ板垣恵介を主人公にしたノンフィクション漫画が描かれてもいいと思いますね。『範馬刃牙』に「先生、打ち合わせと違うじゃないですかァァ〜!」とアオリ文句を付けた担当編集者も当然実名で出して。