タイガーマスクWJ

秋の新作アニメ『タイガーマスクW』第1話を見ました。


速報!東映アニメーション60周年記念企画、タイガーマスクアニメ化決定! - 東映アニメーション 速報!東映アニメーション60周年記念企画、タイガーマスクアニメ化決定! - 東映アニメーション

このブログでは繰り返し書いてきた「『タイガーマスク』の世界にはタイガーマスクがいない」問題ですが、実際に見てみたら、タイガーマスクが繰り出す技はまず佐山聡UWFの理念を象徴させていたチキン・ウイング・フェイスロック、そのまま投げる4代目タイガーの得意技ミレニアム・タイガー・スープレックス、そして伝家の宝刀ローリング・ソバット。予告編ではタイガー・ドライバー’91も出していましたし、歴代タイガーマスクの技をバランスよく使いこなしていました。ストーリーの都合で存在を抹消せざるを得なかった5人の男たちに、しっかりリスペクトを捧げていると感じましたね。


プロレスという総合芸術には、台詞の代わりに技でストーリーを表現する格闘舞台演劇、という側面もあるのですが、このアニメにはその要素がしっかり込められている、といってもいいでしょう。
初代『タイガーマスク』(「初代タイガーマスク」ではない、ああややこしい)の時代から、プロレスアニメでは、現実にはありえない誇張されたアクションがつきものですが、本作では地に足のついた正確な描写がされており、ヘッドロックはちゃんと左手でかけるなど、うるさいプオタの目から見ても満足いく仕上がりでした。



とはいえ、リング上のファイトはバッチリでも、ストーリー上はかなりツッコミどころが多かったですね。



基本設定として、「虎の穴はひそかに生き延び、世界を席巻する大手プロレス団体を陰から操っている」「その団体に潰された弱小団体出身の若手ふたりが、復讐のため、そのひとりナオトはかつて伊達直人の仲間だった高岡拳太郎のコーチで『タイガーマスク』となり、もうひとりのタクマは虎の穴を内部から潰すためあえて入門し『タイガー・ザ・ダーク』となる」というお話なわけですが、第1話のストーリーは、「黒船」と称される大手団体GWM(グローバル・レスリング・モノポリー)が、日本への本格進出第1弾興行を打ち、そこにふたりのタイガーが登場するというお話です。


見た目には完全に横浜アリーナそのものである「横須賀アリーナ」(調べてみたら横須賀市に同名の施設が実在するが、ごく普通の体育館である)を満員にしたこの興行は、虎の穴エージェントのミスX(第1作のミスターXにあたるポジションで、金髪巨乳美女)がプロデューサー兼ディーヴァとして運営しているわけですが、出場するのは「虎の穴」の死の特訓に耐え抜いた、これがデビュー戦となるタクマら若手レスラーたちと、パシフィックチャンピオンのオーディン(なぜかKISSのジーン・シモンズにそっくりである)。メインイベントではオーディンが日本の二流レスラー(もちろん実在しない人である)と戦う、というカード編制です。


セミファイナルまでずっとド新人のデビュー戦ばっかりで、メインはジョバー(やられ役)相手のローカルタイトルマッチ。こんな布陣で横アリが満員になるか!


んで、メインイベントを前に、完全にビビっている日本人レスラーの控室に高岡コーチ(本業がバイク屋なあたりは『仮面ライダー』の立花藤兵衛、松葉づえをついているあたりは『ウルトラマンレオ』のモロボシダン隊長を思わせる)が現れて何かを耳打ち。そして、ゴングが鳴る直前に日本人レスラーは試合を放棄し、代役としてタイガーマスクが乱入するという展開になります。まぁ、ここで「いきなり知らない奴が来て試合できるわけねえだろ」というツッコミを入れるのは野暮というものです。アニメの中には描かれていないけど裏では高岡コーチとミスXの間でそういうアングルが組まれていた、という裏設定で自分を納得させるぐらいの度量はオレにもありますよ、大人なんだから。


そして試合が始まると、ナオト扮するタイガーマスクは素晴らしいテクニックでオーディンを圧倒し、前述したチキン・ウイング・フェイスロックからのスープレックスオーディンの肩を脱臼させます。タイガーマスクが相手の肩を脱臼させた試合といえば、田園コロシアムにおける初代タイガーマスクvsエル・ソラール戦を思い出すオールドファンも少なくないことでしょう。あの純然たるアクシデントを「ソラールがタイガーの正体をバラそうとしたための制裁」と換骨奪胎した場面における、「太陽仮面のおしゃべりめ!」という『プロレススーパースター列伝』の名台詞も思い出深いところです。

あの試合では、ソラールが明らかに試合続行不可能になっているのに、山本小鉄レフェリーが「ファイト!」というばかりで試合を止めようとしないのも味わい深かったですが、『タイガーマスクW』におけるミスXも、試合続行不可能のオーディンに「虎の穴のレスラーが、タイガーマスクを名乗る者に負けることは許されない。負けたら“虎の処刑”よ」と梶原一騎イズムに溢れる脅し文句でさらに戦わせようとするあたりが、小鉄さんへのリスペクトを感じなくもないですがこれは単なるオールドプオタの妄想でありましょう。死にもの狂いで襲い掛かるオーディンに、タイガーマスクは見事なカウンターのローリングソバットを喰らわせ、アゴを撃ち抜かれたオーディンは失神。タイガーはレフェリーに裁定をまかせてそのままリングを去りました。するとミスXはレフェリーに「カウントを取れ」と指示します。オーディンのダウンカウントではなく、リングから去ったタイガーマスクの場外カウントを取るように、という指示です。20カウント数えてもタイガーがリングに戻らないため、リングに倒れたままのオーディンリングアウト勝ちを宣せられ、タイガーマスクのデビュー戦は黒星スタートになったのでありました。


アニメのストーリーとしてはこれでいいけど、冷静に試合を分析すると「メインイベントでいきなり出場選手が変更になり、それも無名レスラーのデビュー戦で、しかも試合結果はいまどき聞いたこともないリングアウト決着」というわけで、これでは日本市場制圧は無理でしょうなあ。昔の新日なら暴動だよ。「GWM(グローバル・レスリング・モノポリー)」という団体名も、ひっくり返せば「WMG(ワールド・マグマ・ザ・グレーテスト)」になるし、WJを思わせるズンドコ興行だと言わざるを得ませんな。レスラーたちとマネージャーがプライベートジェットで来日するあたりの目ン玉飛び出る金銭感覚もカテエし、そういえばWJの旗揚げ戦も横浜アリーナだった!

劇画 プロレス地獄変

劇画 プロレス地獄変

天下の「虎の穴」マネージャー・ミスXがコンビニ弁当とうどんをすする毎日! という展開も期待したい(期待するとは言ってない)。



なお、昨日の新日本プロレス両国国技館大会は、セミとメインがいずれも片方が一方的にやられまくる展開の末の逆転勝利、というちょっとイビツな試合だったのですが(KUSHIDAの負傷→担架退場はアクシデントではなくアングルだろうとは思うけど)、第0試合ではアニメとのタイアップで「タイガーマスクW対レッドデスマスク」というスペシャルマッチが組まれました。タイガーの正体は明らかに飯伏幸太でしたが、マスクがプラスチック素材と思われるモコモコした質感のおもちゃっぽいもので、視界も通気性も悪いらしく、試合中は何度もマスクの鼻のあたりをいじっていて、かなり気にしている様子でした。アレってもしかしたら、オーバーマスクを脱ぎ忘れてそのまま試合やっちゃった、とかじゃないだろうな。あのトンパチならそれもあり得るからなあ……。