鶯の身を逆さまに初音かな

このところ在日米軍軍紀が乱れ、沖縄はじめ各地で兵士の不祥事が相次ぎました。綱紀粛正を図るべく、夜間外出禁止・単独行動禁止などの措置が取られましたが不祥事はやまず、今度はついに禁酒令まで飛び出しました。飲酒は基地の中だけに限られ、飲食店や知人宅でのアルコール供与は禁止されるというから厳しいです。


しかしこの措置は、米兵を顧客としている、基地周辺の飲食店にとっては営業妨害といっても過言ではありません。地元では困惑の声も出ています。


http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn201212040006.html

基地外飲酒禁止で波紋 岩国

 基地外での飲酒を禁止する在日米軍の措置が、本土に駐留する海兵隊員も対象となると明らかになった3日、岩国基地のある岩国市でもさまざまな声が上がった。

 米兵の犯罪を許さない岩国市民の会の大川清代表(54)は「根本的な解決にはならないのでは」。在日米軍は、沖縄での米兵2人による集団強姦(ごうかん)致傷事件後、毎日午後11時から翌朝5時までの夜間外出禁止令を出した。だがその後も全国で対象時間内に米兵による事件事故が続き、大川さんは「措置は本当に順守されるのか」と疑念を抱く。

 年末のかき入れ時だけに飲食店街からはため息も。「大変困る」と基地近くでバーを営む永峯守俊さん(72)。外出禁止令後、週末の開店時間を1時間前倒しにするなどしてきたが「飲酒禁止ならやりようがない。犯罪は許されないが、岩国で事件を起こしたわけではない」とこぼす。

まぁそれはそれとして。


今回の、一連の綱紀粛正を報じるニュースでは、どこの新聞でも基地外という言葉をそのまま使ってるんですよね。

基地外飲酒」。英語でいうとクレイジー・ドリンキングですよ。そりゃ禁止もやむなしですわ。


横溝正史自選集〈2〉獄門島

横溝正史自選集〈2〉獄門島

今年の文春東西ミステリーベスト100でも国内1位に選ばれた、横溝正史の名作『獄門島』。この作品では、網元の娘の三姉妹が俳句に見立てて殺される事件に、金田一耕助が挑みます。


第一の事件では、宝井其角の句「鶯の身を逆さまに初音かな」に見立て、絞殺された少女の死体が梅の木に逆さ吊りにされます。

獄門島 [DVD]

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これを発見した寺の和尚は、「気違いじゃが仕方がない」と言います。
門島では、殺される三姉妹の父親が、発狂して座敷牢に幽閉されています。この人物の存在と、異常な死体の状況から、金田一耕助は「父親が犯人では」と疑い、読者もこの方向にミスリードされます。
しかし、見立ての俳句は春の句であり、事件が起こったのは秋(映画版では夏)です。和尚の真意は「季違い」だったのでした。


このミステリ史上に残る有名なミスリードは、映画ではそのまま再現されていますが、テレビドラマでは「季が違うが仕方ない」と言い換えられています。

獄門島【リマスター版】 [DVD]

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古谷一行金田一耕助に扮する『横溝正史シリーズ』がMBS系で放送されたのが、1977年のこと。テレビにおいて「気違い」が規制されはじめたのは、1974年に、三船敏郎主演の『新・荒野の素浪人』を見た大阪府精神障害者家族会が、劇中で無造作に「キチガイ」という言葉が使われていたことに抗議したのがきっかけとされています。
新・荒野の素浪人 DVD-BOX 第一巻

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それまで「キチガイ」は軽い言葉とされていて、『ウルトラマン』第二話でもイデ隊員が「僕は宇宙語に関してはキチガイさ」と言っています。
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しかしこの抗議により、精神障害の当事者が「キチガイ」という言葉によって深く傷つくことが周知され、現在の放送コードではほとんど聞かれなくなりました。
例外として、『獄門島』や『ウルトラマン』などを再放送するときには、「時代性とオリジナリティに配慮して」というエクスキューズ付きで「キチガイ」という言葉が聞かれることがありますが、あくまで例外です。


劇中で「キチガイ」が連呼され、精神障害者は殺人を犯す危険な存在として描かれた『怪奇大作戦』24話「狂鬼人間」は今も封印作品となったままで、封印が解かれる気配はありません。

封印作品の謎―ウルトラセブンからブラック・ジャックまで (だいわ文庫)

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まぁオレはビデオ持ってるんですけどね(ニィーッ

といっても、最近は昔出回ったビデオをもとに違法アップロードされた動画があちこちで見られるので(検索するとすぐ出てくる)その貴重さもずいぶん薄れました。


そんなわけで、「キチガイ」と言う言葉は滅多に聞かれなくなり、パソコンでも一発で「気違い」とは変換されないのが普通です。


そうして「基地外」という言葉が隠語として使われるようになったのですが、米兵の不祥事が続くこの頃は本来の意味で使われることが多く、「漫画喫茶で全裸になって放尿」「他人の家に入り込んで大暴れ」などの基地外事件の内容も相まって、妙に味わい深い事態になっているのがなんともはやです。