沿岸と内陸の違い

深町秋生先生の『ダウン・バイ・ロー』を読みました。

ダウン・バイ・ロー (講談社文庫)

ダウン・バイ・ロー (講談社文庫)

雪に覆われた山形県南部の町を舞台に、自殺した友人の幻影に悩まされる女子高生が、閉塞感の漂う町に隠された秘密に迫っていく物語です。


同じ東北でも、太平洋側と日本海側、沿岸と内陸で気候風土はまったく異なります。
三陸生まれの仙台育ちで、基本的に雪に閉ざされることはない太平洋側の沿岸で暮らしてきたぼくは、日本海側の内陸に漂うこの閉塞感を、皮膚感覚として知ってはいません。沿岸はいくら衰退していても、どこかに解放感があるものです。そんなぼくにとって、この作品で描かれている閉塞感は本当に息が詰まるようで、そこから逃げ出したいという主人公の願いの切実さも、胸に迫るものがありました。


新庄市マット死事件をモチーフにした」という触れ込みからは、もっとセンセーショナルな作品を想像するかもしれませんが、事件そのものより、事件の背景にあった、いじめられっ子の親と地元民の軋轢が、作品に活かされています。
今回は暴力描写は控え目ですが、その分、地に足の着いたリアリティは従来の作品より豊富です。深町作品によく登場する暴力団「印旛会」が、今回も登場するファンサービスもあり。大藪春彦の小説にいつも「山野組」が出てきたのと同じようなものでしょう。

山口組組長専属料理人 ?側近が見た渡辺五代目体制の16年?

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大型ショッピングセンター「オゾン」が出てくるあたりも、ネーミングの妙味を感じさせるものがあります。貧困ビジネスも描かれており、著者の問題意識が強く出た作品になっています。必読。


ただ、欠点としては著者近影が載ってないことが挙げられますね。
秘宝EXとBootlegと黒豹的著者近影 - 深町秋生の序二段日記
こんなにステキな写真があるのに!