アウトクラッシュ

深町秋生先生の『アウトクラッシュ』を読み終えたところです。

アウトクラッシュ 組織犯罪対策課 八神瑛子? (幻冬舎文庫)

アウトクラッシュ 組織犯罪対策課 八神瑛子? (幻冬舎文庫)

お話はシンプルですが、登場人物がはしばしまで魅力に富んでいて、良かったです。


深町先生の小説では、関西に本拠地を置く日本最大のやくざ「華岡組」と、関東に勢力をもつ「印旛会」という対立の構図が、他作品にも共通して出てくるのですが、今回は新たに、暴走族OBが組織する愚連隊「東京同盟」が登場します。この辺りは「実話マッドマックス」周辺の香りが漂っています。

市川海老蔵 眼に見えない大切なもの (Grazia Books)

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今作の準主役ともいえるのが、メキシコから来た殺し屋「グラニソ(雹)」の通訳としてつけられる東京同盟のメンバー、比嘉アントニオです。どう見てもあの人物をモデルにしています。グラニソが姿を現した中盤以降は、比嘉の視点から語られるパートと、八神の視点から語られるパートが交互に出てくる構成になります。必然的に比嘉が物語に占めるウエイトが大きくなりますが、復讐の女神である八神や、冷徹に利得のためにのみ動く暴力団員たちと違い、人間的な感情とヒロイズムを残している比嘉を語り手に加えることにより、読者が物語に感情移入しやすくなっています。戦闘を楽しみ、笑顔で人を殺すグラニソのキャラクター造形も秀逸で、比嘉との間に生まれるかすかな交流も、いい味です。


今回の八神は、グラニソとの戦いよりも、富永署長が送り込んだスパイとの暗闘に手間を取られ、グラニソとの戦闘は比較的あっさりと描かれています。ここは、八神はあくまで女性刑事であってワンマン・アーミーではないという、リアリティのぎりぎりの線を守っています。その場にあるものを利用して、機転で戦うくだりは『冒険野郎マクガイバー』あたりに通じるものも感じます。

冒険野郎マクガイバー シーズン1〈日本語完全版〉 [DVD]

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前作から引き続き登場する、八神の仲間の活躍もうれしい。八神が求める真実にもぐっと迫ってきた感触があり、早くも次作が待たれるところです。平松伸二先生あたりに漫画化してもらっても面白いだろうなぁ。