『つなみ』vs木村政彦

そうだそうだ、今年度の大宅壮一ノンフィクション賞が発表されてたんだった。


http://www.bunshun.co.jp/award/ohya/index.htm


1985年のクラッシュ・ギャルズ

1985年のクラッシュ・ギャルズ

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

今年は、候補に挙がった4冊中2冊がプロレス関係というラインナップで、かつて井田真木子の『プロレス少女伝説』が候補になったとき、他の審査員が激賞したのに立花隆が強硬に反対して(「プロレスは知性と品性と感性が同時に低レベルにある人だけが楽しめる低劣な見世物」とまで言っていた)受賞を逃したときとは隔世の感です。
プロレス少女伝説 (文春文庫)

プロレス少女伝説 (文春文庫)


んで、今年の受賞は増田俊也さんの『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』と、被災地の子どもたちによる文集『つなみ』が同時受賞です。媒体によって、主になる作品が違いますが、大手新聞社のサイトでは『つなみ』の方が主になっています。


http://www.asahi.com/culture/update/0410/TKY201204100546.html

被災地の子たちに大宅賞 震災体験文集がベストセラーに

 第43回大宅壮一ノンフィクション賞日本文学振興会主催)の選考会が10日、東京都内で開かれ、増田俊也氏の「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」(新潮社)と、森健氏と被災地の子どもたちによる作文集などに決まった。

 被災地の子どもたちが震災の体験をつづった「つなみ 被災地のこども80人の作文集」(文芸春秋)は、森氏が震災1カ月後から避難所を回り、集めた作品。つたない言葉でつづられた体験が反響を呼び、ベストセラーになった。その後も取材を続けた森氏は、ルポ「『つなみ』の子どもたち―作文に書かれなかった物語」(同)をまとめた。当初はルポだけが候補作だったが、選考委員の猪瀬直樹氏は「作文には大人には書けない表現で心の記憶が残っている」と話し、一体での異例の受賞になった。

 正賞各100万円。贈呈式は6月中旬、東京の帝国ホテルで。


http://mainichi.jp/feature/news/20120411ddm012040056000c.html

大宅壮一ノンフィクション賞:子供の被災体験集に

 第43回大宅壮一ノンフィクション賞日本文学振興会主催)の選考会が10日、東京都内で開かれ、東日本大震災での被災体験を作文にした子供たちへの異例の授賞が決まった。受賞作は、森健さん(44)の著作「『つなみ』の子どもたち−−作文に書かれなかった物語」(文芸春秋)と、森さんが企画などを担当した「つなみ 被災地のこども80人の作文集」(「文芸春秋」2011年8月臨時増刊号)▽増田俊也さん(46)の「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」(新潮社)−−の2件。
 「作文集」には、被災地の幼児から高校生まで80人が参加。当初は候補に入っていなかったが、急きょ追加された。選考委員を代表して会見した作家で東京都副知事猪瀬直樹さんは「3・11の心の記録をどう残すか、という意見があり、授賞となった」と説明。2冊セットでの受賞は初めて。


http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20120410-OYT1T01045.htm

大宅壮一ノンフィクション賞に作文集「つなみ」

第43回大宅壮一ノンフィクション賞日本文学振興会主催)の選考会が10日、開かれ、森健さん(44)の「『つなみ』の子どもたち」(文芸春秋)と、森さんが企画などを担当した東日本大震災の被災地の子どもたちの作文集「つなみ」(文芸春秋8月臨時増刊号)が異例の受賞となった。


 選考委員の猪瀬直樹氏は「津波の怖さというものが大人では書けない文章で表現されている。大宅賞の新しい在り方を考えた。森健さんと子どもたちに賞を差し上げたい」と語った。

 増田俊也さん(46)の「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」(新潮社)も受賞した。

 正賞100万円。贈呈式は6月中旬に行われる。

(2012年4月10日20時58分 読売新聞)


ただし、増田さんが所属している中日スポーツだけは、写真入りで大々的に会見の模様を報じています。


http://www.chunichi.co.jp/chuspo/article/entertainment/news/CK2012041102000239.html

中日スポーツ増田記者が大宅壮一賞 柔道着はおり受賞の喜び

 第43回大宅壮一ノンフィクション賞日本文学振興会主催)は10日、増田俊也さん(46)の「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」(新潮社刊)、フリージャーナリスト森健さん(44)の「『つなみ』の子どもたち」(文芸春秋刊)と「つなみ 被災地のこども80人の作文集」(同)に決まった。「木村−」の著者は実は中日スポーツ記者。受賞の喜び、故木村政彦さんらへの熱き思いを本紙につづった。贈呈式は6月、東京都内のホテルで行われる。賞金は各100万円。
 

 会見場に現れた増田記者は、「よろしいでしょうか」と許しを求めてやおら北大時代の柔道着をはおった。手には木村政彦の遺影。ともに名古屋から持参した品だ。
 

 「木村先生、無念晴らしました! と言うつもりでしたが、そういうことじゃなかったんです」と語り始めた。
 

 本にしようと書き始めて18年。柔道界だけでなく力道山との戦いに敗れ、やがてプロレス界からも排斥された木村の名誉を復権させるのが筆をとらせる動機だった。だが、行き着いたのは愛。「(同時受賞の)『つなみ』もそうですが、両方の本に救いがあったからでは」と話す。


 単行本は約700ページにおよぶ超大作だが、選考委員を務めた猪瀬直樹さんは「ページをめくらせる力強さと面白さがある。立花隆さんも言っていた」と評価。「木村さんの人生を描くことで武道の歴史が描かれ、世界史的な視点からも近代を見つめている。初めて見つけた事実が圧倒的に多かった」と受賞理由を話した。


 大宅壮一賞の価値について問われ、「木村さんは命をかけて天覧試合を闘った。ぼくにとっては、きょうが天覧試合でした」と万感の思いを口にした増田記者。受賞の連絡が入った時は男泣きし、家族や取材で世話になった関係者にお礼を述べていたが、最後は満面に笑みを浮かべていた。


たしかにものすごい傑作でした。スポーツ・ノンフィクションの金字塔ともいえる、素晴らしい作品だと思います。


ただあの本には、あまり指摘している人はいないようですが、大きな欠陥が一つありますね。
力道山vs木村政彦の試合について、木村先生の準備不足や危機意識の欠如を指摘して「これでは勝てない」と結論づけるところはたしかに的確でしたが、力道山の実力についてはほとんど触れられていません。ユセフ・トルコや山口利夫ら柔道側の人間から「寝技は弱かった」と証言を引き出している程度です。


おそらく、追及しすぎると「いくら柔道が強くても相撲取りには勝てない」という結論に達してしまうので、そこを慎重に避けたのではないかと思います。
増田さんの柔道愛がそうさせたのでしょう。


『つなみ』の方は読んでないのでなんとも言えませんが、こっちはツッコミづらいだろうなぁ。