ブック/ブッカー/ブッキング

みんなのプロレス

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斎藤文彦のこのコラムで、プロレス用語の誤用について指摘されています。


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 ネット世代のプロレスファンがよく使う隠語(とされるもの)のなかでいちばん誤りが多いのは、ブックあるいはブッカーという単語だろう。


 プロレスにはシナリオ、脚本があると信じているファンはよく「だれがブック(脚本)書いた?」「あれはブック破りだ」という表現を使うが、これは明らかに誤用だ。


 プロレス用語として使われるブックは名詞ではなくて動詞だから、ブックbook(―を手配する、―を記載する、―を記録する、―を契約する)、ブックトbooked(過去形)、ブッキングbooking(現在分詞・動名詞)、人間を指す場合はブッカーbookerという変換になる。

たしかにこの言葉は、自分の記憶では21世紀以降に使われ始めたように思います。ぼくが子どものころは、プロレスにおいて「ブッカー」「ブッキング」という言葉はあったんですけど、試合の筋書きを「ブック」と称する語法は、目にしたことがありませんでした。


少年時代のぼくの解釈では、「ブッカー」というのはプロレス団体との窓口となり、所属外の選手を招聘・契約する業務(ブッキング)を行う人のことで、たとえば全日本プロレスならドリー・ファンクjr.だったり、新日本プロレスならブラッド・レイガンズであったり、そういった人が「ブッカー」と呼ばれていた記憶があります。


それが、ミスター高橋の本による影響もあってか「プロレスには筋書き/脚本がある」という認識が広まるにつれて、「脚本」という言葉のイメージから「ブック」という偽用語ができていったように思いますね。いまではすっかり定着してしまい、ぼくも使うことがあります。予定が狂うことを「ブック破り」とはいいますが、これが「ブッキング破り」だったら出場予定の選手が無断で欠勤するニュアンスになっちゃうので、これは社会人として許されないでしょうね。


プロレス用語にもいろいろありますが、ほとんどは業界内部から出てきたものです。斎藤さんのコラムでも書かれているように、日本のプロレス業界は力道山が相撲業界の慣習を引き継いだため、ほとんどの隠語が相撲由来のもので、あとはアメリカの言葉を輸入したものですが、いま使われている「ブック」は、ファンの側から生まれてきた珍しい言葉だといえるでしょう。


ちなみに、相撲界由来の隠語には「金星(美女)」「刺身(キス)」など艶めいたものもありますが、性交のことを「首投げ」と呼ぶのはいまだに意味がわからない。
首投げを決めた体勢が男女の体位に似ている、といわれているんですが、首投げを決めたら柔道でいう袈裟固めの体勢になるじゃないですか。そんな体位でどこが気持ちいいのか、いくら考えてもわからないまま不惑の年を迎えたワスなのであることよ。



というか、もし木村政彦力道山に勝ち、日本のプロレス界が柔道出身者で構築されていたとしたら、プロレス用語も柔道由来のものが主流になっていたのかなぁ。とはいっても、柔道界の隠語って思いつかないけど。