灰になるまで

深町秋生先生の『アウトバーン』を読みました。

アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子 (幻冬舎文庫)

アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子 (幻冬舎文庫)

アウトバーン」とは、ドイツの高速道路ではなく「燃え尽きるまで」という意味だそうです。


主人公の八神瑛子は、夫の不可解な死をきっかけに悪徳刑事に変貌したという設定。暴力団と裏で手を組み、同僚を金で手なずけ、躊躇なく暴力をふるうその姿はクールの一語につきます。『野望の王国』の柿崎憲レベルです。

野望の王国完全版 1 (ニチブンコミックス)

野望の王国完全版 1 (ニチブンコミックス)

とはいえ、柿崎が「警察機構という暴力装置を我が物として日本を支配する」という具体的な野望を持っているのに対し、瑛子はもっと形而上的な暗い衝動に突き動かされています。近年の女刑事ものでは、誉田哲也先生の『ストロベリーナイト』にはじまる姫川玲子シリーズが有名ですが、姫川玲子が比較的マジメな警察官なのに対して、八神瑛子は単に腐敗しているという以上の、組織を破壊しかねない狂気を秘めたキャラクターになっていて、暗黒小説の趣きを持っており、姫川玲子シリーズとは雰囲気が大きく異なります。
ストロベリーナイト (光文社文庫)

ストロベリーナイト (光文社文庫)


瑛子が不自然に強すぎないのも好印象。このテの女性主人公を男性作家が描くと、どうしても作者の理想が投影されすぎる傾向がありますが(『攻殻機動隊』の草薙素子なんかその典型)、瑛子は格闘場面では特殊警棒が頼りで、カラテでバッタバッタと悪党を倒したりはしないので、女性としてのリアリティを失っていません。

特殊警棒 ブラック 21

特殊警棒 ブラック 21


本作のラストは「第一話完」となっており、これからのシリーズ展開が楽しみです。ミステリとしては複雑すぎない、過不足のない内容で「シリーズ第一話」には最適でしたし。腐敗刑事の瑛子を危険視しながらもその能力は認めているキャリア官僚の署長とか、瑛子の手下で元女子プロレスラーの里美とか(女子プロ時代に先輩からの強烈ないじめに耐えたため、少々の暴力を受けても動じないという設定は明らかに元全女だと思う)いい味のキャラクターを散りばめてあるので、彼ら彼女らの活躍にも期待したいです。映像化もアリだと思うなぁ。瑛子役は、アメリカならヒラリー・スワンクで決まりなんだけど、日本で彼女の位置にあたる女優って誰になるんだろう。