”震災文化人”たちの情報は正しいか

山本弘のSF秘密基地BLOG:『検証 大震災の予言・陰謀論』


山本弘会長のブログで紹介されていた、ASIOS(Association for Skepticai Investigation of Supernatural、超常現象を懐疑的に調査する団体)の本『検証 大震災の予言・陰謀論』を読みました。

検証 大震災の予言・陰謀論 “震災文化人たち”の情報は正しいか

検証 大震災の予言・陰謀論 “震災文化人たち”の情報は正しいか

東日本大震災について、陰謀論による人工地震説や、原発に関連して発言する文化人(武田邦彦氏、小出裕章氏、田中優氏、苫米地英人氏ら)、デマや誤信(とくに、怪文書原発がどんなものか知ってほしい」に対して厳しく批判している)、震災後に広まった予言やニセ科学に批判を加えています。


人工地震説はもうお話にならないと切って捨てるがごとき扱いですが、陰謀論に絡んで、柴田哲孝先生の小説『GEQ』も紹介されています。

GEQ

GEQ

2010年に発売されたこの小説では、主人公のフリージャーナリストが、阪神大震災も2004年のスマトラ沖地震も2008年の中国四川大地震も実は人工的に起こされたもので、911テロも米国の自作自演だということを突き止めます。


これを信じてしまう人も世間にはいますが、山本会長は「あくまでフィクション」と冷静に評価しています。
この作品については、柴田先生ご本人が「ノンフィクションとして書くつもりだったが、証拠がないのでミッシングリンクが出てしまう部分を創作でつなげた」と発言しており、いかにも本当らしく書かれています。が、科学的にはちょっとありえない話なので、おそらくは、地震にまつわる怪情報や911陰謀論をまとめて、それらを本当の話と仮定してひとつの物語にしたということなんだと思います。柴田先生には『下山事件 最後の証言』などノンフィクションの傑作もありますが、大藪春彦賞も取ったミステリー小説にUMAを出すなどトンデモ方面への大胆なアプローチでも知られているだけに、「いかに本当らしくトンデモを描けるか」では当代きっての書き手だといっていいでしょうね。

下山事件完全版―最後の証言 (祥伝社文庫 し 8-3)

下山事件完全版―最後の証言 (祥伝社文庫 し 8-3)


デマの部分は、荻上チキさんの『検証 東日本大震災の流言・デマ』という先行書があるので、あまり多くの紙幅は割かれていません。

検証 東日本大震災の流言・デマ (光文社新書)

検証 東日本大震災の流言・デマ (光文社新書)


力が入っているのは、原発文化人や自称予言者への批判部分です。とくに武田邦彦氏は、ブログをまとめたものとはいえ一冊の本の中で「短時間に200ミリシーベルトまで被曝しても安全(3月13日)」→「1ヶ月で100ミリシーベルト浴びても安全(3月18日)」→「年間1ミリシーベルト以上は危険(4月4日)」と急に1200倍も基準を厳しくしてみたり、副島隆彦氏との対談の中で「それは嘘です」と言った直後に「私は嘘って言ってませんよ」と正反対のことを言ってみたり、一貫しない態度が強く批判されています。


また、武田氏は「食物は1kgあたり10ベクレル(セシウムヨウ素)以下なら安全」と発言していますが、
http://takedanet.com/2011/05/post_4637.html
白米には自然な状態でも1kgあたり33ベクレルの放射性カリウム40が含まれており、その被曝量はセシウム137に換算して16ベクレル相当となります。武田氏の基準を守るためには、白米も食べることができません。ちょっと前に、どっかの大学教授が「さっきのコンビニ弁当米飯。ベクレル入りだった気がする」とツイートして総ツッコミを受けましたが、白米がベクレル入りだということ自体は事実なんですね。


ちなみに武田邦彦氏がいちやく有名になった『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』についても、事実誤認や捏造が目立つと指摘されています。

“環境問題のウソ”のウソ

“環境問題のウソ”のウソ


武田氏に比べると小出裕章氏についてはまだ好意的な書き方ですが、「低線量被曝では線量が小さいほど単位線量あたりのリスクが大きくなる」という「超直線仮説」なる理論を採用していることに対し、リスクと線量に明確な相関関係がみられないことを説明するための「詭弁の産物」とバッサリ斬っています。また、小出氏が京大で助教の位置にとどまっているのも、原発推進派の圧力ではなく、そもそも本人に昇進の意思がないことを明らかにしています。


科学者でない予言者に対してはさらに辛辣で、今回の震災をブログで予言したとして本も出している松原照子なる人物については、震災後にブログ記事を改ざんしたのではないかという疑惑とともに、2005年から2011年までの間に47都道府県すべてで「いつか地震が起こる」と予言している事実を指摘します。それならいつかどれかは当たるに決まってますね。そもそも三陸沖は地震が多く、数年前から「30年以内に大地震が発生する確率は90%以上」と科学的に予見されていたのだから、よけい当たりやすいというものです。


ほかにも、小林亜星の息子で『太陽戦隊サンバルカン』バルパンサーを演じていた小林朝夫氏が、今は地震予知原発デマを拡散する人になってしまったことを嘆いて、「2011年の時点で小林氏にヒーローの力があるはずはない。なぜなら、彼の持っていたバルパンサーの力は『海賊戦隊ゴーカイジャー』に受け継がれていたからだ」とオタク話でツッコミを入れるなど、多少のユーモアもある本でした。


「福島や栃木や茨城の食材を避けることにまったく意味はない」、という指摘に衝撃を受ける人もいるかもしれませんが、広く読まれてほしい本だと思います。一読の価値あり。

検証 大震災の予言・陰謀論 “震災文化人たち”の情報は正しいか

検証 大震災の予言・陰謀論 “震災文化人たち”の情報は正しいか