白いマットのジャングルに

アメリカはミシガン州で、学校でのイジメを禁止する法律「マット安全法」が成立したとのこと。


http://getnews.jp/archives/152767

ゲイの子はイジめてもOK!? ミシガンのイジメ防止法

先日ミシガン州で、『マット安全法』(Matt’s Safe School Law)と呼ばれる学校でのイジメ防止法が州の法律として成立しました。


この法律、ゲイであることで執拗なイジメを受け、それを苦に2002年に自殺をしてしまったマット・エプリング君を忘れないでおこう、ということで、こうした名前がついていて、一見良い法律のほうですが……。


文言には次の一文が。

もしイジメが”sincerely held religious belief or moral conviction”で行われた場合は適用しない

つまり、イジメが宗教的信仰、あるいは道徳的信条に基づくなら、それはOKというもの! なんと!?


アメリカがかなりの宗教国家であることは、ブッシュ前大統領の台頭時から日本でもかなり知られてきましたが、この法律も特にキリスト教右派にとっては使い勝手の良いものとなってしまいました。


ワシントン・ポスト紙が批判しているところによると、ゲイの子どもをいじめるには、(キリスト教にとっての)旧約聖書の『レビ記 20:13』を引用すればよい、というのです。ちなみに、日本聖書教会の新共同約での当該箇所は

女と寝るように男と寝る者は両者共にいとうべきことをしたのであり、必ず死刑に処せられる。彼らの行為は死罪にあたる。

となっています。


またユダヤ人イジメをするには、新約聖書の(皮肉にもマットのラテン読みである)『マタイによる福音書 27:25』を引用すればよいと。

民はこぞって答えた。「その(キリストの)血の責任は、我々と子孫にある。」

これは、昔から反ユダヤ政策に用いられてきた文言でもあります。


しかし、いわゆるバイブル・ベルトと呼ばれる、アメリカ南部のキリスト教信者(主にバプテスト)の多い地域でもない中西部のミシガン州で何故? という疑問は残ります。


これはもしかすると、ミシガン州が宗教に寛容だったからかもしれません。実はミシガン州は、中東からの移民が全米一多い州。2005年の統計ですが、中東地域を除くとパリに継いで世界で二番目にイスラム教徒が多い地域なのです。


こうした宗教への寛容さ、あるいはそれに対する反発が、キリスト教右派の台頭を許してしまったとしたら、それは大変残念なことと言えます。実際、亡くなったマットの父親であるケヴン・エプリング氏は、この法律は恥ずべきもので、政治が偏見を容認してしまった、と嘆いているそうです。(Detroit Free Press)


もちろん、アメリカ人、日本人共に良い人もいれば、悪い人もいるように、アメリカ、日本共に、良いところ、悪いところ、多々あります。日本でも性差別はなかなかなくなりませんが、宗教の名のもとに暴力を肯定する法律は、宗教テロさえ容認しかねず民主主義の根幹を揺るがすものです。こればっかりは輸入するわけにはいきません。

この文言があるなら、ほとんどのイジメは合法になりますね。旧約聖書レビ記11章には食べ物に関する律法が厳しく定められています。食べてはいけないものは、

  • ひづめが分かれていて、反芻するもの以外の哺乳類(具体的にはラクダ、イワダヌキ、野うさぎ、豚)
  • ヒレやウロコのない水棲生物
  • 猛禽類、カラス、コウノトリ、サギ、ヤツガシラ、コウモリ
  • イナゴ以外の昆虫(ただし、聖書の本文には「四本の脚を持つ昆虫」という生物学的に矛盾したことが書いてある)
  • モグラネズミ、トビネズミ
  • 爬虫類

これらが挙げられています。ラクダやハイラックスはともかく、豚肉を食べていないアメリカ人はほとんどいないでしょう。イカやエビもダメ。日本人はスッポンを食べますがこれも爬虫類だからダメです。生きたマムシの血をすするバッファロー弁慶なんかはもってのほかです。ウナギや太刀魚もウロコがないからダメ。韓国人は犬を食べますがこれも反芻しない哺乳類だからダメですね。イタリア人はタコを食べるしフランス人は生ガキを食べます。「ヤツガシラ」ってのは里芋の一種かと思いましたが、そういう鳥もいるんですね。


もっともこれらの律法は、新約聖書使徒行伝10章において否定されているんですけどね。


逆に、ミシガン州アメリカでいちばんイスラム教徒が多い地域だとのことですから、イスラム式の屠殺をしていない肉や豚肉を食べる子どもが、ムスリムの子どもたちからイジメにあっても、宗教的理由として許されなければならないことになります。どう考えても余計な文言なので、削除されるかもしれませんね。


それにしても、イジメを禁止する法律が「マット安全法」という名前なのは、そこはかとなく山形県への悪意が感じられなくもないといいますか。

マット死事件―見えない“いじめ”の構図

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“いじめ学”の時代

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山形ではマットが勝手にいじめられっ子を巻き込んで窒息させると聞きますが、これはひとつの妖怪譚ととらえるべきかもしれません。ぜひ、山形県でもマット安全条例を施行してほしいですね。