幸福の国

日本中にフィーバーを巻き起こした、ブータンジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王夫妻(それにしても、「ジグミ・ケサル」って名前はなんだか富野由悠季のアニメに出てきそうな響きだ)は帰国の途につきましたが、国会でした演説が話題になっています。テレビでは報じていない部分がある、と指摘する人がいます。


日本のテレビがカットしたブータン国王の演説 - シバヘイズの大麻解放日記
この方の主張によれば、

第二次世界大戦の歴史を筆頭に、日本人は自国の歴史に自信を持てないように教育され、外国にのっとられているも同然のマスメディアもそれに追い打ちをかけるような報道を行っている現実。


まとめると

日本は現在、世界史をつくる上で極めて重要な位置にいる。過去にはアジアの国々を植民地状態から解放し、自信と希望を与えてくれた。日本は伝統的な価値における模範であり、世界のリーダーにふさわしい。

ブータンの国王が思っている、ということを日本国民には知らせたくなかったのです。

なんだそうです。しかしこの記事中には、その発言のソースがまったく載っていません。


んで、ガジェット通信に載っていた演説全文と照らし合わせて、ツッコミを入れる記事がこちら。


ブータン国王の演説を改竄するマスゴミ!? - Hagex-day info


日本がアジアの国々に自信と希望を与えたのは、植民地状態からの解放ではなく、戦後の復興と経済成長を示したことによる、ということですね。だいたい、日本はアジアの国々を「解放」なんてしてないでしょ。日本がやったのは「進出」であって、もっといえば「侵攻」でしかないんですけど、そういうことを書くとまた「自虐史観」とかいうヤツが出てくるんだろうなぁ。なんで「自虐史観クラスタの人たちってのは「アジア人から尊敬される日本」の像に固執するのかなぁ。ブータンの王様がいくら社交辞令を述べたからって、自分が褒められてることには全然ならないんですけどね。あと、「日本人は自国に自信を持てないように教育されている」って耳にタコができ過ぎてギョーザ耳になるぐらい聞かされてますが(ちなみにオレの耳たぶは正常である)いったいどこでそんな教育が行われ、情報統制がなされているというんでしょうか。どこのマスコミも日ごろから日本バンザイの報道ばっかりしてるのに、こういう人たちがいうマスコミってのはどこのことを言ってるんでしょうね。浅田真央が転んだ写真を見せられただけでこの人たちは自信を失うんでしょうかね。実に脆弱なもんです。


それに、ANNのこのニュースでも、ちゃんと「日本はアジアの国々の模範である」と国王が言ったことを報じています。

ちゃんと国民に知らされてるじゃないか。この例に限らず、「○○をマスゴミは報じてない!」と叫ばれることってたいてい実際にはちゃんとニュースになってるんですよね。騒いでるのは、報道番組なんて見ない人たちなんでしょう。



さて、今回の国王来日によってブータン・ブームが日本に起こっています。

秘境ブータン (岩波現代文庫)

秘境ブータン (岩波現代文庫)


「地上の楽園」「国民総幸福量を提唱し、心の豊かさを重視する国」ともてはやされていますが、ブータンにどれだけ言論の自由があるかも考慮する必要があると思いますね。


ブータンは北部の仏教徒と南部のネパール系ヒンドゥー教徒からなる多民族国家ですが、国王の姿を見てもわかるように支配階層は仏教徒です。そして、1989年にブータン北部の伝統と文化に基づく国家統合政策が導入され、南部の住民に対する民族浄化がはじまり、その結果として12万人に及ぶ難民がネパールに流出しています。


くわしくはこちらを参照。


ネパールのブータン難民


韓国や中国は反日だから悪い国、ブータンやトルコは親日だからいい国、という単純な考え方をする人もいますが、トルコにもアルメニア人虐殺など歴史的な問題があり、ブータンにも民族問題があります。どの国家も内部にそれぞれの問題を抱えており、単純に割り切れるものではありません。そういえばハックルの人は「オレの悪口を言うやつは悪いやつ、オレを褒めるやつはいいやつ」というジャイアンでも言わないようなオレ様理論を展開していましたが、根底にあるメンタリティは、「自虐史観クラスタの人たちと似たようなもんなのかもしれません。
(こないだamazonから『小説の読み方の教科書』をおすすめするメールが来た。なめてんのか)


国民総幸福量」にしても、ブータン国立研究所のカルマ・ウラ所長(これまたなんとも富野っぽいネーミングだな)によれば、二年に一度、人口67万人のブータン国民から八千人を選び、一人に五時間かけて面談するそうです。それに、ブータンでは学校教育が行き届いておらず、テレビも最近までなかったので国民の多くは外の世界を知りません。必然的に「自分は幸福です」と答える人の割合は高まるでしょう。だいたい、政府の役人が聞き取り調査をするんだったら、国民総幸福量の世界一は北朝鮮になっちゃうよ。


ワンチュク国王夫妻のエレガントな物腰と、猪木に似たルックスのおかげでブータン人気は急上昇していますが、あんまり手放しでもてはやしてるとあとで幻滅することにもなりかねません。気をつけたいものです。