ぶれるな警察!

産経新聞西日本版のサイトで、こんな記事を見かけまして。


http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/120529/waf12052915270032-n1.htm

ぶれるな警察!不祥事防止より犯罪摘発を優先せよ 編集長・井口文彦

 警察不祥事の発覚が目立つ。全国の懲戒免職は1〜3月で12人。警察改革以降で最悪に迫った平成22〜23年と同じペースという。関西も相次いだ。

 3月、大阪府警警部補が飲酒検査のアルコール数値を水増ししていた事件が表面化。次いで同府警の署刑事課長が証拠品の吸い殻を別の吸い殻で代用したことが発覚し、4月の京都・祇園の暴走事故発生当夜に京都府警交通部長らが飲酒していたことが批判を呼んだ。京都・亀岡の暴走事故では被害者情報の扱いで猛反発を受けた。

 不祥事の本質的問題は、その中身のはずだ。が、往々にして、対応の稚拙さなど別次元の要因が加わって焦点がぼやけ、警察は本質の所在を見失いがちだ。その結果、「組織管理」自体が目的にされてしまうことが多い。

 これが内部の価値観を歪(ゆが)めている。

繁華街で薬物使用者捜し…情報力が社会正義を実現する


 私が支局で駆け出しの警察回り記者だった20年前はアクの強い刑事がごろごろいた。普段は雀荘(じゃんそう)に入り浸っているくせに、競い合うように事件を摘発するのだ。「どこからあんなネタを引っ張ってくるのか」と不思議だった。

 刑事たちの力の源泉は情報源の多様さ。その開拓方法がすさまじい。目をつけた対象者の“埃(ほこり)”を見つけ出し、わざと見逃して恩を売り、協力者にする−というのだから、驚かされた。

 ある刑事は交番勤務時代、無免許なのにバイクで出前をしていたそば屋の従業員を見逃した。地方出身の素朴な青年ということで将来も考え、「今回限り。一日も早く免許をとれ」。店主が土下座せんばかりに感謝した。

 店主はその後何かと噂話を持ってきた。「誰の息子は暴走族」などたわいない内容が大半だが、ある日、「あのマンションは妙な客がいる。毎週木曜の夜に必ず30人前の出前を頼む」という。内偵の結果、大掛かりな賭博の手入れに発展した。「情報力が社会正義を実現する」。刑事は痛感した。

 別の刑事は暇を見つけパチンコ店を回った。薬物使用者を捜すのだ。真夏も長袖を着ているから見当はつく。トイレに入るのを追い、注射器を使う現場に踏み込む。「こんなところでやりやがって。現行犯でパクるぞ!」と絞り、「今回だけは勘弁してやるから二度とやるな」とアメを与えた。組員が大半で、多くが情報源になった。

 暴力団対策法の影響で捜査がやりにくくなったが、彼には情報が集まった。筋者に流れるアングラ情報は価値が高い。金や利権の在り処を示し、これに絡む殺人、恐喝、詐欺などあらゆる犯罪の影が潜んでいる。暴力団監視の武器であり、犯罪摘発の端緒だ。

 本部長賞など受賞が引きも切らずだったこの刑事が定年を前に警察を去った。「時代が違って私らのやり方は通用しない。でも刑事がネタをとれなくなったらしまいだ。策を考えなくちゃならん。もがく刑事を疑ったりするような職場はいかん。今の警察はホシをとるより事故(不祥事)を起こさないほうが大事。このままでは私らは組織に迷惑をかけてしまいそうで」

“清潔”なだけでは闘えない


 階級社会の警察では、「不祥事防止」の掛け声が管理職を経て現場に下りるにつれ、そのニュアンスが極端になっていきがちだ。加えて、監督責任を恐れる中間管理職が保身から「不祥事につながりかねない微妙な捜査活動」を厄介事と嫌がる空気が、「事故を起こさないことの方がホシより大事」と現場に解釈させているようだ。

 厄介事を避け捜査などできない。表層的な情報で闘えるほど凶悪・組織犯罪は甘くない。蛇の道は蛇と言うが、先の刑事たちは不祥事になりかねない裏技で蛇の道に入った。彼らは世界に冠たる治安の立役者で、階級とは無関係に一目置かれる存在だった。

 それが、今はどうだ。ある刑事は在職末期、こんな仕打ちを受けた。

 「外を回っていると携帯に『今どこだ』と電話が入る。答えると、『○○の交番が近いな。10分後に行ってくれ』と言う。何だろうと交番に行くと、上司から交番の署員に『ウチの者が来たか』と確認が入る。私が答えた場所に本当にいたか、裏をとっているんだ。そこまで私らは信用されない。放っておいたら不祥事を起こすかもしれんから行動を監視する。そんな環境で、刑事が仕事に燃えられますか」

 暴力団との癒着などが問題化するたび繰り返される「綱紀粛正」。警察は清潔になっていったが、蛇の道に入る刑事を排除してしまった。捜査力は低下している。重大な損失である。

 「警察は社会を映す鏡」。そう語ったのは『ニッポンの警察』著者の米国人社会学者、デイビッド・ベイリー氏だが、過剰に管理を強める警察の姿は日本社会の今の一断面であろう。

 不祥事がなくならないでいいとは言わない。が、捜査を阻害する対策は筋違いだ。小遣いほしさで警察手帳を偽造するようなくだらぬ警官に過剰反応して捜査を縛ってはいけない。幹部はぶれるな。警察の第一義は犯罪摘発にある。清潔でも、国民を助けられぬ弱い警察などいらない。警察庁はその気概で全国の警察を支えてほしい。

 捜査力強化を目指すと不祥事が目立ち始め、その防止に注力すると捜査力が落ち、重大事件が迷宮入りする。焦って再び捜査力の強化を叫ぶ−。いいかげん、この繰り返しから脱却したい。捜査力の向上と不祥事の根絶は決して利益相反の関係にはない。

…………。


えーとですね。


冒頭に挙げられた不祥事の例のうち、アルコール数値の水増しや証拠品の捏造は、法律より犯罪摘発を優先した結果じゃないかと思うんですけど。


暴力団との癒着を排除することで捜査力が低下した、という論旨も意味不明。『県警対組織暴力』の見すぎじゃないの?

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あと、上司が刑事の動向を監視して電話してくるあたりは、深町秋生先生の『アウトバーン』シリーズみたいですね。

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「今の警察はホシをとるより事故(不祥事)を起こさないほうが大事」という刑事の言葉も、「ホシと決めた人間をとるためなら法律違反も辞さない」という意識の表れにしか読めないんですけど。


警察の不祥事の中には、こんな悪質なものもあります。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120527-00000546-yom-soci

実は「乱暴目的だった」同僚女性宅侵入の警官

 長崎県警大村署交通課巡査長、岡田章英容疑者(30)が同僚女性(27)宅への住居侵入容疑で逮捕された事件で、同県警は27日、この女性に乱暴しようとしてけがを負わせたとして、強姦致傷容疑を加えて長崎地検に送検した。

 発表によると、岡田容疑者は25日午後6時頃、同県大村市内のアパート2階の女性宅に侵入し、待ち伏せした。帰宅した女性に襲いかかって転倒させ、首などに3週間のけがを負わせた疑い。女性が大声を出して抵抗し110番したため、諦めて逃走。騒ぎに気付いた近所の住民らがアパート敷地内で取り押さえ、駆けつけた署員に引き渡した。「乱暴目的で部屋に入った」と供述しているという。

 県警監察課の梅田貞省次席調査官は「事件を厳粛に受け止めており、しかるべき事実が認定された段階で厳正な処分を行う」とコメントしている。


「清潔でも国民を助けられぬ警察などいらない」なんて言ってますが、不潔な警察はむしろ国民にとって有害です。自衛隊と同じく警察も暴力装置なんですから、その力の行使には慎重であってもらいたいものです。

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