無人警察

にぎやかな未来 (角川文庫)

にぎやかな未来 (角川文庫)

筒井康隆は、「てんかんだった文豪ドストエフスキーは尊敬するが、彼の運転する車には乗りたくない」と言っていたといいますが、断筆宣言の原因になった短篇「無人警察」には、未来の警察で交通取締りをするロボットが出てきます。そのロボットは速度測定器やアルコール摂取量測定器とともに脳波測定器を内臓しており、違反者の摘発とともに、てんかんの発作を起こす恐れのある運転者は病院へ収容するという役割を負っているのでした。


まぁブラックユーモアを含んだディストピアものとして非常にわかりやすい設定ではありますが、これが高校の国語教科書に採用されたことに日本てんかん協会が抗議し、すったもんだの末、断筆宣言に至ったのは記憶に新しいところです。


そんな文学上の事件を思い起こさせる、こんな事故が報じられました。


http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110420-OYT1T00017.htm

「持病の薬飲み忘れた」6人死亡事故の運転手

 栃木県鹿沼市樅山町の国道293号で18日朝、集団登校中の同市立北押原小学校の児童6人がクレーン車にはねられ死亡した事故で、自動車運転過失傷害容疑で逮捕された同県日光市大沢町、運転手柴田将人容疑者(26)が、栃木県警の調べに対し、「持病の発作を抑える薬を飲み忘れていた」と供述していることが19日、捜査関係者への取材でわかった。


 県警は事故原因との関連について裏付け捜査を進めている。


 捜査関係者によると、柴田容疑者は「てんかんの持病があるが、この日は発作を抑える薬を飲み忘れていた」と供述。また、事故直前にハンドルに突っ伏し、事故後もしばらく車内で動かないでいる姿が目撃されており、県警は発作を起こし、意識を失っていた可能性もあるとみている。


このような事故はたまに聞かれます。以前にも、糖尿病のトラック運転手が低血糖の発作を起こして大事故に至ったというニュースがありましたが、実はこの運転手は、3年前にも児童をはねる事故を起こしていたとのこと。


http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/local/accident/news/20110419/500367

3年前も登校列へ突入 鹿沼6児童死亡の容疑者

 鹿沼市樅山町の国道293号で登校児童の列にクレーン車が突っ込み児童6人が死亡した事故で、自動車運転過失傷害容疑で鹿沼署に逮捕された日光市大沢町、運転手柴田将人容疑者(26)が約3年前にも、登校途中の児童をはね民家に突っ込む同種の事故を起こしていたことが19日、捜査関係者らへの取材で分かった。この事故で有罪判決を受けた柴田容疑者は現在、執行猶予期間中という。


 柴田容疑者は約3年前の2008年4月、鹿沼市御成橋町の国道で、変形の交差点を直進し、集団登校途中の当時小学5年生の男子児童を歩道上ではねた後、民家に突っ込んだ。被害児童は右足を複雑骨折する大けがを負った。


 はねられた児童の母親(38)によると、児童は友人2人と登校中にはねられたという。現在中学2年生の男児は「ものすごいスピードで突っ込んできた。とても怖かった」と振り返る。


 男児の母親によると、事故後、謝罪に来た柴田容疑者は当時、「前の日に夜遊びをしていて(事故当時)居眠りしていた」などと被害者側に説明したという。母親は、6人が死亡した今回の事故を受け、「私たちの事故の反省が生かされていない」などと話した。


 また、車が突っ込んだ民家の女性(40)は当時、柴田容疑者の親族から「(柴田容疑者が)事故の前の日が休みで、夜遅くまで遊んでいて寝ていなかった」などと聞かされたという。「事故を目撃した人から『事故後、柴田容疑者が意識がもうろうとした様子だった』とも聞いた。今回の事故とあまりに似ている」などと話した。

こちらの記事では、持病については触れられていません。3年前の事故では「居眠り」と説明していたようです。


かつて、てんかん患者は運転免許を取得することができませんでしたが、2002年に道路交通法が緩和され、発作を起こすおそれがないと診断された人は免許を取れることになりました。その条件はかなりわかりづらいので、くわしくはこちら参照。


http://www.geocities.jp/i_nami_08/douro.html

  • 過去5年以内に発作がなく、今後発作が起こるおそれがない人
  • 過去2年以内に発作がなく、今後○年程度であれば、発作が起こるおそれがない人
  • 医師が2年間経過観察をし、発作が睡眠中に限っておこり、今後症状の悪化のおそれがない人


ということは、もし、3年前の事故のときにもてんかんの発作を起こしていて、それを正直に申告していたら、免許は取り消されて再取得もできなくなっていたということですね。そうしていたら今回の事故は起きなかったわけですが、本人にも生活があるわけですから、綱渡りでも運転手を続けざるを得なかったのでしょうか。とにかくいたましい限りです。