たたりの古井戸

東北地方はまだ梅雨明けしていませんが、雨が降りながらも蒸し暑い日が続いています。
こういうときは、怪奇ものに限りますね。


というわけで、今日はぼくの秘蔵のホラー漫画『たたりの古井戸』をご紹介します。

この『たたりの古井戸』は、1981年に立風書房レモンコミックスで出た漫画です。怪奇漫画の世界にはコレクターが多く、とくにひばり書房の貸本時代のものは高値で取引されていたりしますが、立風書房の本も、最近はめっきり見かけなくなりました。でもそんなに価値は出ないと思います(笑)


この漫画のなにが面白いのかといいますと。
このテのホラー漫画は基本的に少女漫画であり、小学生〜中学生ぐらいの女の子を主たる読者としています。なので、主人公は女の子がつとめる場合がふつうです。


しかし、この『たたりの古井戸』では、主人公はおっさんです。

これがファーストシーン。どうですか、この表情。


このおっさんが果たして何者なのかといいますと、土建屋の社長です。
そのうえ市会議員です。

なにこのアッパー系オヤジ。


んで物語はといいますと、この土建屋議員が市民会館を建てるために、おばあちゃんと孫娘が住むお屋敷を地上げして、井戸に身を投げた孫娘に呪われるというシンプルなもの。このテの漫画には因果関係がムチャクチャに破綻したものが少なくないのですが、これは比較的キレイにまとまっていて安心して読めます。


でもこの漫画の本当の魅力は、味のあるイイ顔のおっさんがいっぱい出てくるところです。


まずは比較対象として、孫娘の絵はこう。

書き文字がいい味を出していますが、いかにもテキトーな絵ですね。


これに対し、土建屋議員が市長と会食して、「今度は県議会に出ては」とすすめられる場面の絵はこう。

どうですかこのガハハ感。そもそもふつうのホラー漫画には、ガハハ親父が小料理屋で一献かたむける場面なんてないよ。


そして、土建屋の家に飛んできたカラスを、ゴルフクラブで撃退する場面のこの雄々しさときたら!

「こんちくしょう」ですよ「こんちくしょう」。この書き文字は実にいい味があるなぁ。


それからこの漫画には、「医者」が妙に多く登場します。


まずは医者一号。孫娘がいなくなって発作を起こすおばあちゃんと、主治医と、孫娘の家庭教師の一場面より。

真ん中の人が医者です。ばあちゃんも家庭教師も捨てがたいですが、この顔はいい味だなぁ。


次いで医者二号。

土建屋の娘がプールで溺れるのですが、それを診察したのがこの医者。ヒゲ系ですね。


んで、医者三号。

呪いにあって倒れた土建屋を診察したのがこの人。いわゆる寝ぼけ系の顔立ちですね。


そして医者四号。

呪いのせいで車の事故を起こした土建屋を、診察しています。しゃくれ・ケツアゴ・メガネという芸人的においしい顔立ちですね。


漫画家の絵の上手さについて、いろいろ基準があるかと思いますが、ぼくが重視するポイントが「人物の描き分け」です。
すごく美しい少女や少年を描けても、出てくる人みんな同じ顔という漫画家も少なくないですが、この『たたりの古井戸』では「医者」という同じくくりの中でこれだけ描き分けられています。絵そのもののレベルは高いとは思いませんが、描き分けという点ではぼくが高く評価する一冊ですね。


というかふつう、単行本一冊の漫画に医者は四人も出てこないよ! 病院ものでもない限り。


んで、イイ顔オヤジの真打ちが、お屋敷の井戸を埋めるにあたって地鎮祭をすべきと主張し、意見が容れられなかったため退社する河治さんというおっさん。

…味があるなぁこの顔。いま、この顔が描ける漫画家がはたして何人いると思いますか。そうとうな人生経験を積まないと、この味は出せないよ。



というわけで、ストーリーはほとんど無視しながら読んでみましたが、とにかくおっさんのイイ顔が味わえることは請け合いです。涼しくなれるかどうかはまったく保証できませんけどね! たまにブックオフとかで見かけるので、出会ったら確保をオススメいたします。