One more red nightmare

昨今ではハードボイルド小説というと、犯罪者や捜査官の悲哀を描いたノワール的なものを思い浮かべる人が多いと思いますが、1970年代ごろ、まだライトノベルなんて言葉がなかったころには、超人的な戦闘能力を持ったスパイや殺し屋が、犯罪者やテロリストをばっかんばっかん殺しまくる小説が量産されておりました。


イアン・フレミングが007シリーズ第一作『カジノ・ロワイヤル』を発表したのが1953年。

007/カジノ・ロワイヤル 【新版】 (創元推理文庫)

007/カジノ・ロワイヤル 【新版】 (創元推理文庫)

当初はそれほど売れなかったようですが、1960年代に入るとこのシリーズは映画化され、アメリカでも荒唐無稽なスパイアクション小説が大ブームとなります。

ドナルド・ハミルトンの”マット・ヘルム”シリーズなど、後発の作品がいくつも出ますがやがて飽きられ、70年代に入る頃には、とにかく暴力と殺戮をパワーアップさせたハードアクション小説がどんどん発表されました。


このジャンルの先駆けとなったのが、フランスのジェラール・ド・ヴィリエによる”プリンス・マルコ”シリーズ。

主人公の”プリンス”ことマルコ・リンゲが、神聖ローマ帝国第18代大公殿下でありながら、先祖伝来の居城にかかる莫大な維持費のため、CIA特務諜報員として世界を股にかけ、テロリストと戦ったり東側の陰謀を阻止したり美女と熱い一夜を過ごしたりするという、実に荒唐無稽なものです。


このヒットを受け、アメリカではドン・ペンドルトンによる”死刑執行人[エクスキューショナー]”シリーズが登場します。

マフィアへの挑戦 (1) (創元推理文庫 (158‐1))

マフィアへの挑戦 (1) (創元推理文庫 (158‐1))

家族をマフィアに殺されたベトナム帰還兵マック・ボランが、非情な死刑執行人[エクスキューショナー]としてマフィアと戦うこのシリーズは大ヒットし、物騒な通り名を持った主人公が活躍するシリーズがいくつも作られました。


スチュアート・ジェイスンによる”屠殺人[ザ・ブッチャー]”シリーズ、サイモン・クインによる”異端審問官[インクィジター]”シリーズ、R・L・グレーヴズの”破壊工作班”シリーズ、マーフィ&サピアの”殺人機械[デストロイヤー]”シリーズ、ジョゼフ・ローゼンバーガーの”死の商人[デス・マーチャント]”シリーズなどなど。


(屠殺人シリーズは絶版)

最後に地獄を見た男 (創元推理文庫―インクィジター (214‐1))

最後に地獄を見た男 (創元推理文庫―インクィジター (214‐1))

復讐のブラックゴールド (創元推理文庫 195-1 破壊工作班)

復讐のブラックゴールド (創元推理文庫 195-1 破壊工作班)

デストロイヤーの誕生 (創元推理文庫 159-1 殺人機械シリーズ 1)

デストロイヤーの誕生 (創元推理文庫 159-1 殺人機械シリーズ 1)

デス・マーチャント登場 (1981年) (創元推理文庫)

デス・マーチャント登場 (1981年) (創元推理文庫)


んで、彼らは世界を股にかけて活躍するので日本を舞台にした作品もあり、かつ、時代性を取り入れているので、70年代日本のテロリストといえば連合赤軍日本赤軍なわけです。

SAS/日本連合赤軍の挑戦 (1979年) (創元推理文庫―プリンス・マルコ・シリーズ)

SAS/日本連合赤軍の挑戦 (1979年) (創元推理文庫―プリンス・マルコ・シリーズ)

”プリンス・マルコ”シリーズのこの作品には、「眼球突出性の甲状腺腫にかかっている」岡田広子というテロリストとか、美人ホステス「ミス重信」が登場します。


なんて安直なネーミングなんだ。


デス・マーチャント/悪夢の日本連合赤軍 (1982年) (創元推理文庫)

デス・マーチャント/悪夢の日本連合赤軍 (1982年) (創元推理文庫)

それから、”デス・マーチャント”シリーズのこの作品では、昭和天皇とフィリピンのマルコス大統領を暗殺しようとする連合赤軍、およびその背後で糸を引いている北朝鮮工作員が悪役として登場します。


そして、デス・マーチャントことリチャード・カメリオンとその仲間たちは、赤坂にある北朝鮮大使館に潜入し、激闘を繰り広げるのですが、この作者は日本と北朝鮮に国交がないことを知らなかったんですね。


現実的に考えると、ここで舞台になるのは千代田区富士見にある朝鮮総連中央本部のはずなんですが、あそこはいちおう民間団体だから、さすがにそれはまずいだろうなぁ。


それと、この作品が書かれた1978年にはとっくに連合赤軍は壊滅していますね。

レッド(1) (KCデラックス)

レッド(1) (KCデラックス)

この小説の巻頭には、岡本公三の言葉が引用されていますが、そこでも彼の所属を「連合赤軍」と書いています。


この当時、中東で幾多のテロを行っていたのは「日本赤軍」ですからね。お間違えのないよう。

日本赤軍20年の軌跡

日本赤軍20年の軌跡