Red light-Green light
五月の第二日曜日は母の日です。
というわけで、2chでよく出てくる「カーチャンとタケシ」のAAを集めた、こんなエントリもありました。
http://2log.blog9.fc2.com/blog-entry-1893.html
…つーか、おまいらあれですか。
カーチャンが死なないと感謝しないんですか。
んで。
ある母と子のあり方が重要なテーマになっている、この小説を読んだのです。
- 作者: 横溝正史
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1986/09/01
- メディア: 文庫
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横溝正史が、その晩年のブームに刺激されてセミリタイア状態から復帰した記念すべき作品。
実は、主立った金田一耕助ものの長編の中で、なぜかこれだけ今まで読んでなかったのでした。
20年越しぐらいかなぁ。
この小説の主人公は、日本を代表する映画女優の鳳千代子。
彼女は、これまでに4人の夫と離婚しており、まもなく5人目の夫となる実業家と交際中。
そして、昭和35年の軽井沢を舞台に、過去の夫たちが次々に殺害されていくという物語です。
千代子には、最初の夫だった戦前の人気俳優、笛小路泰久との間に娘の美沙がいますが、彼女は泰久の継母である篤子(つまり祖母)の手で育てられており、母とは離れて暮らしています。
この母子が、山田五十鈴と嵯峨三智子をモデルにしているのはほぼ間違いないでしょう。
- 作者: 映画秘宝編集部
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2003/09
- メディア: 単行本
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この小説でも、美沙と母の間にはあまり親子らしい交流が持たれていないように描写されています。
※以下ネタバレ
実は、連続殺人の犯人は16歳の少女である美沙でした。
彼女の血液型はB型で、O型の泰久とA型の千代子の間に生まれるはずがありません。
自分の娘でないことを知った父の泰久に、彼女は犯されます。
このことによって彼女は大人たちを激しく憎むようになり、簡単に人を殺すようになったのでした。
父親に犯された娘が魔性と化す、という展開は大藪春彦の「復讐の弾道」なんかにも見られ、また某先生の某大賞受賞作品(ネタバレ回避のため匿名。来月文庫化されるそうです)もそういう話でした。
- 作者: 大薮春彦
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 1973/10
- メディア: 文庫
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この辺は、ちょっとギリシャ悲劇を思わせるような部分ですね。
そして。
美沙は泰久の子ではなかったのですが、実は千代子の子でもありませんでした。
実は、本物の美沙は赤ん坊のころに空襲で亡くなっており、家名の存続と千代子から養育費をもらうため、祖母の篤子がどこからかつれてきた替え玉だったのです。
このことに気づいた、千代子の元夫たちを美沙は次々に殺していた、というのが真相でした。
で、美沙が千代子の子でないことが分かった原因が、彼女が実は赤緑色盲だったということ。
色覚異常は劣性遺伝であり、色盲の女性は、色盲の父親と、色盲の因子を持った母親との間にしか生まれません。
笛小路泰久は色盲ではなく、鳳千代子も、両親が色盲ではないので因子を持っていない。
ゆえに、美沙は千代子の娘ではない、というのが金田一耕助の出した結論でした。
…あれ?そうかな?
ちょっとこちらを見てみましょう。
http://g3400.nep.chubu.ac.jp/onsenkids/column/sikimou/sikimou.html
千代子の母が色盲でなかったとしても、因子を持っていなかったかどうかまではわからないはずです。
もし、千代子の母が色盲の因子を持っていた場合。
その因子は50%の確率で千代子に遺伝しています。
そして、千代子が色盲の因子を持っていた場合、色盲の男性との間に女児が生まれたら、その子が色盲である確率は50%となります。*1
ということは、美沙が色盲だからといって、千代子の娘でないとは断言できないはずですね。
まぁ、作品中では篤子が自白しているからいいんですが、金田一耕助は意外とハッタリを効かせる人だ、というのは覚えておいてもいいでしょう。
あと、美沙が色盲だとバレる場面ですが。
関係者みんなで行ったゴルフ場で、グリーンの上に赤い毛糸でマーカーをつけるんですが、美沙はそれが見えないんですね。
それに気づいた、千代子の新恋人の娘婿(ややこしいが、美沙の義兄格になるという解釈でいいんだろか)が、
「なあんだ、美沙ちゃん、君、色盲かあ!」
と、素っ頓狂な声を上げるんですよ。
…これはちょっと、あまりにもデリカシーがなさ過ぎるんじゃないでしょか。
*1:実際にはもっと複雑な素因があり、確率はもっと低い。こちら参照。http://www.nig.ac.jp/color/barrierfree/barrierfree1-6.html