殺してやる!殺してやる!殺してやる!

<昨日の続き>
帰ってきたウルトラマン」が放送されたのが、1971年。
同じ年、スタンリー・キューブリック監督の映画「時計じかけのオレンジ」が公開されました。

時計じかけのオレンジ [DVD]

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レイプとウルトラバイオレンスとベートーヴェンを生きがいとする青年が、洗脳によって無害な人間になるものの、また暴力性を取り戻して「社会復帰」する姿を描いたこの映画を観た、22歳の孤独な青年アーサー・ブレマーは、暴力に対する憧れからリチャード・ニクソン大統領暗殺を決意します。
しかし警備が厳しかったためアラバマ州知事だったジョージ・ウォーレスに標的を変え、彼を狙撃。
ウォーレスは一命を取り留めたものの半身不随となり、車椅子生活を余儀なくされました。

逮捕されたブレマーのつけていた日記には、孤独な人間の悪意が増幅されて狂気に至る過程が事細かに記述されており、社会に衝撃を与えます。


そして、その日記を読んだ脚本家志望のポール・シュレイダーは、そこに描かれていた孤独に大きな衝撃と共感を感じ、それを基にした脚本を書き上げます。

その脚本を、マーティン・スコセッシ監督のメガホンで映画化したのが「タクシードライバー」でした。

ヴェトナム帰りの元海兵隊員、トラヴィス・ビックルロバート・デ・ニーロ)は不眠症に悩まされている。
家族も友達も恋人もいない彼には、眠れぬ夜をともに過ごす相手はいない。


ポルノ映画館での暇つぶしにも飽きたトラヴィスは、タクシー運転手として就職する。


深夜のNYを走る彼の目に映る街の姿は、堕落しきって汚れたものだった。

街角に溢れる娼婦にポン引きにからかわれ、後部座席でイチャつくカップルの残したザーメンの掃除に明け暮れる日々。


ラヴィスの精神は鬱屈してゆく。

わたしはタクシーってほとんど乗ったことがないので、こういう運転手の存在をまったく意に介さないかのような利用態度は理解できません。
どうしても「人の車に乗せてもらう」っていう感覚になっちゃうんですね、お金払ってるのに

そんなトラヴィスのせめてもの慰めになっていたのが、大統領候補パランタインの選挙事務所で働くベッツィ(シビル・シェパード)の存在だった。

ラヴィスは彼女をデートに誘うことに成功するが、最初のデートでポルノ映画館に連れて行き、ふられる。

この辺のくだりは「電波男」で本田透さんが「寅別関係」として言及されていましたね。

街のゴミを一掃してやりたい、その思いにかられたトラヴィスは、ヤミで拳銃を買い込み、体を鍛え始める。

ガスコンロの火に握り拳をかざして拳を鍛える。
胸の前で両手をパチンと合わせる腕立て伏せ。
ハンガー架けを利用しての懸垂。
ベッド下に足を突っ込んでの腹筋。

同時に、拳銃の弾頭に十字の切り込みを入れてダムダムに加工する。
机の引き出しのレールを利用し、手を振ると拳銃を飛び出す仕掛けを作る。


鏡に向かい、職務質問されたときのシミュレーションを繰り返す。
「You talkin' to me?」「You talkin' to me?」

ここでトラヴィスが買った銃は、

  • スミス&ウエッソンM29 44マグナム口径 銃身8インチモデル 
  • スミス&ウエッソンM36 38口径 スナッブ・ノーズモデル 
  • コルト ポケット・ピストル 25口径 
  • ワルサーPPK 口径9mm

こんな名品たちが、いずれも闇値で150ドルから350ドル。アメリカに移住してしまいたくなりますな

ラヴィスは、12歳の娼婦アイリス(ジョディ・フォスター)と出会った。

タクシーに乗り込み、「どこでもいいから逃げて!」という彼女を、ヒモでポン引きのスポーツ(ハーヴェイ・カイテル)が引きずり降ろす。

ある日、ついに彼女のいる売春宿を訪れたトラヴィス
「キミみたいな女の子が、こんなことしてちゃダメだよ」
でもアイリスは耳を貸さない。「あんたってマジメなのね」と返すだけ。

風俗嬢に説教するというのはダメな大人の典型ですな

ラヴィスが、仕事の合間にコンビニで買い物していると、黒人の若者が店主に拳銃を突きつけて金を要求していた。

強盗を、持っていたワルサーの一撃で射殺するトラヴィス


世間はもうどうしようもなく病んでいる。

ついにトラヴィスの決行の日がやってきた。

ラヴィスのモデルとなったブレマーは、日記に「ぼくは第一次世界大戦を起こした銃弾のように重要になる」と書いていたそうです。

You Could Have It So Much Better

You Could Have It So Much Better

「歴史に名を残す」というのは、左右問わずすべての暗殺者やテロリストの本当の動機に他なりません。

パランタイン候補の演説会に、準備万端整ったトラヴィスが気合充分で現れた。

しかし、気合が入りすぎてモヒカン刈りにしていったため、一瞬で警備に目を付けられ、一発も撃てずにその場から逃げるトラヴィス

マヌケ過ぎます

パランタインを撃てなかったトラヴィスは、矛先をあの売春宿に向ける。
入口に立つスポーツの腹に38口径を撃ち込み、もがき苦しむスポーツを横目に室内へと入り込む。

階段に立ちふさがるオヤジに向けて44マグナムを発射。手に当たり、指がバラバラに砕け散る
この野郎!てめえなんか殺してやる!殺してやる!
わめくオヤジを尻目に、トラヴィスは奥へ進む。

腹を押さえながら、後ろからトラヴィスを撃つスポーツ。トラヴィスの首から血が噴き出し、思わず左手に持ったマグナムを取り落とす。

振り返り、憎悪を込めて右手に持ったスナッブ・ノーズでスポーツを蜂の巣にするトラヴィス

倒れこんだトラヴィスにマフィアの男が近づく。
右手を振って仕込み銃を飛び出させ、マフィアの顔面に25口径を全弾撃ち込む。

アイリスの部屋に入り込んだトラヴィスに、手を吹き飛ばされたオヤジが襲い掛かる。
殺してやる!殺してやる!殺してやる!
喚くオヤジに、トラヴィスはブーツに仕込んでいたナイフを取り出して左手に刺す。
ぎゃあぁあ〜っ!」悲鳴をあげるオヤジの額に38口径を押し当てる。
殺さないで!」悲鳴をあげるアイリスに構わず、脳漿を壁に飛び散らせてオヤジを射殺するトラヴィス


警察が到着する。トラヴィスはポケット・ピストルをコメカミにあてて撃鉄を引くが、弾はもうない。代わりに、指を当てて撃つまねをする。薄笑いを浮かべ、「BANG,BANG…」と呟きながら。

この銃撃シーンは、巨匠ディック・スミスによる弾着効果が心ゆくまで堪能できます。

大統領候補狙撃犯になるはずが、少女をマフィアから救出した英雄に祭り上げられたトラヴィス
アイリスの親からは感謝の手紙が届き、新聞にも取り上げられる。

退院し、仕事に復帰したトラヴィスはベッツィを載せる。
デカイことをやって彼女を見返したと思ったのか、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、料金をおごって別れるトラヴィス

彼の狂気は救済されたのか、と観客が安堵したのもつかの間、バーナード・ハーマンによるロマンティックなテーマ曲が一瞬の不協和音に乱され、バックミラーに映るトラヴィスの目がクローズアップになる。

ラヴィスはきっと思っているのです。
また起こらないかな、今度はもっと撃ちまくってやる…!
あの「じゃみっ子」六助と同じように。


この映画が、後にロナルド・レーガンを狙撃したジョン・ヒンクリーを刺激していたというのもよく知られていますね。「ジョディのために撃ったんだ!」というストーカーの典型。


こうして見ると、ウルトラマンからレーガン狙撃犯に至る一本のラインが出来上がるわけで、つまり一番おそろしいのは市川森一だということになるわけですね

ってどういう結論だ、オイ

*本日の記事は、わたしの師匠である(と勝手に思っている)町山智浩さんの名著「映画の見方がわかる本」を参考にした部分が大であります。

早く第二弾が読みたいです。