ふるさと地球を去る

本日は、ウルトラ問題作シリーズとして「帰ってきたウルトラマン」第25話「ふるさと地球を去る」をご紹介します。

DVD帰ってきたウルトラマン Vol.7

DVD帰ってきたウルトラマン Vol.7

建築中のマンションから、コンクリートだけが浮上して宇宙へと飛んでいくという事件が発生する。

コンクリートに含まれる砂利は、群馬県の愛野村から採取されたものだった。
MATの郷隊員と南隊員は、愛野村へ調査にゆく。


南は語る。「オレの故郷に似ている…」


幼いころ、南は「じゃみっ子」と呼ばれていた。
親から糸を吐くことを教わらなかった蚕のことをそう呼ぶ。
誰からも愛されない、誰からもかまわれない子供、じゃみっ子。


そんな南を変える事件があった。
村に熊が現れたとき、南は猟銃を持ち出して立ち向かったのだ。
「オレが正真正銘の弱虫だったからさ。無茶というのはね、逃げ場もないくらいにいじめられ、追い詰められた者にしかできないんだ。逃げ場があるうちは逃げ回るからね」

それ以来、いじめっ子たちも南に一目おくようになり、自信を持つことができた南だった。


愛野村にも、じゃみっ子と呼ばれる少年、六助がいた。

この、じゃみっ子へのイジメがまた陰湿です。
バケツを持たされて立たされている六助に、イジメっ子たちは「軽くしてやる」とバケツの水をぶっ掛けます。

しかも、「軽くしてやったんだ、礼ぐらい言えよ」と、強制的に土下座させて「ありがとう」と言わせるんですよ
子役イジメには容赦のない番組でした。

愛野村の地盤は、一万年前にザゴラス星から飛来した隕石の上に立っていた。
その隕石に含まれる放射性物質が、ザゴラス星の引力に引かれているのだった。

村には地震が頻発し、そして怪獣ザゴラスが出現。
隕石に含まれていた微生物が、放射線を浴びて突然変異したものだ。
ひとしきり火を吹いて暴れたのち、地中へ去るザゴラス。

この、ザゴラスのヌイグルミの造形はちょっとショボイです。残念なマイナスポイントですね。

愛野村には避難命令が出る。臨時対策本部を設置し、避難を指示するMAT。
いじめっ子たちは、学校からオルガンを運び出して教師から褒められる。

しかし、「じゃみっ子」六助の行動は違った。
MATのキャンプに侵入し、MATガンを盗み出す六助。

六助を追った南は、その姿に自らの過去を重ね合わせ、自分の監視下で銃を撃たせてやることにする。

この措置には明らかに問題があると思われますが、そこはまぁスルーすることにします。

再び姿を現す怪獣ザゴラス。
六助は、南とともにザゴラスに向けてMATガンを撃ちまくる。

ザゴラス星からの引力はますます強くなり、あちこちで地盤が崩れる。
そして、土砂崩れに巻き込まれた郷はウルトラマンに変身する。

ウルトラマンとザゴラスの死闘が繰り広げられる中、ついに村の地盤が浮上。
浮遊する村の上に取り残された南と六助は、絶体絶命のピンチだ。

ウルトラマンは、ウルトラカプセルで南と六助を包み、地上に降ろす。
そして、ザゴラスを掴んで空を飛び、隕石に激突させて倒す

今回はスペシウム光線もウルトラブレスレットも使いません


そして、すべてが終わって南は六助に優しく語り掛けます。
「村は無くなったけど、村を守って戦ったという思い出は一生忘れないよ」
その自信があれば、この先の人生でどんな辛いことがあっても頑張れる、と自分の経験を踏まえて語る南隊員。
ここで終われば普通の感動作なのですが、市川森一はそんな一筋縄で行くような脚本家ではありません


六助には、南の言葉はまったく耳に入ってません。

六助は、MATガンをいとおしそうに頬擦りすると、


「また起こらないかな、今度はもっと撃ちまくってやる…!」


とつぶやき、虚空へ向けてMATガンを乱射する。
その表情には狂気すら感じられるものだった。

南は、「もうよせ、もういいだろう!」とやめさせるが、その表情は暗澹たるものだった。

虐げられた者の怨念が、武器を手にすることで狂気へと突入してしまうという衝撃的な結末。

惨めな日常が、銃をとっての戦いというシンプルで圧倒的な現実の前に相対化されるというのは、テロリストたちの本当の動機に他なりません

いや、ネット上での論争にもそういう側面があるのかもしれません。
論敵をいかに口汚く罵ったところで、テメエの馬鹿が治りゃしねえんだぞ、というのは胸に刻み込んでおきたいと思います。



実は、この「ふるさと地球を去る」によく似たストーリーを持つアメリカ映画があります。
タクシードライバー」です

というわけで明日に続きます。