この世は地獄さ

<昨日より続く>

ついにパラダイスの幕は上がった。
満員の観客の前に現れたのは、「カリガリ博士」ふうに歪んだ書き割りのセットで表現された、怪しげな洋館の手術室。

その前で演奏するのは、顔を白黒にペイントしたバンド「アンデッズ」。また「ジューシィ・フルーツ」のメンバーが改名したグループである。

このメイクはどう見てもKISSなんですが、映画が撮影されたのはちょうどKISSがデビューした頃なんですよね。どっちがパクったんだろう。

地獄のさけび (紙ジャケット仕様)

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で、アンデッズは刃物のついたギターを振り回して歌い、客席に仕込んであった人体部品を受け取っていきます。ちょっとアリス・クーパー風のシアトリカルな演出ですね。
すべての部品がそろい、手術が完了するといよいよ人造人間ビーフが登場。
この辺はちょっと「ロッキー・ホラー・ショー」と共通する雰囲気です。

ビーフが歌う、ウインスロウ入魂の歌「ライフ・アット・ラスト」。
そのパフォーマンスは、ウインスロウの意図とはまったく違う、悪趣味なアレンジによるものだった。

舞台袖に潜んで覗き観たウインスロウは激怒し、稲妻を模したネオンを投げつけてビーフを感電死させる。

この歌のシーンは、本当に笑ってしまうほど悪趣味です。
歌を吹き替えているのは、シンガーのレイ・ケネディ
ハードロックファンには、84年の「スーパー・ロック'84」にMSGのヴォーカルとして助っ人参加・来日したものの、歌詞もメロディもまったく覚えていないという悪夢のようなパフォーマンスをやらかしてしまった張本人として記憶されている人物です。

ウインスロウの怒りを静めるためには、フェニックスに歌わせるしかない。
ビーフの死も演出だと思って熱狂する観客の前に、静かに進み出るフェニックス。

戸惑う観客だが、彼女の素晴らしい歌唱に満場のスタンディングオベーションが起こった。
新たなスターが誕生したのだ。


だが、スターになったフェニックスは、スワンに誘われて彼の愛人になってしまう

愛するフェニックスがスワンに抱かれるのを覗き見るウインスロウ。
絶望した彼は、ナイフで自らの胸を刺して自殺を図る。

しかし、その姿は背後のカメラで逆にスワンからも覗かれていた。
倒れたウインスロウに近寄るスワン。


「契約を忘れたか?お前の命は私のものだ」

スワンとの契約によって、ウインスロウはスワンが生きている限り死ねない体になっていたのだ!


自分の意思で死ぬことすら奪われたウインスロウは、逆上してスワンの胸を刺す。
しかし、傷口からは一滴の血も流れない。
スワンは言う。「私も契約してる

ウインスロウのカンタータのテーマは「ファウスト」でしたが、ここで映画の方のテーマも「ファウスト」になるわけですね。

スワンが生きている限りウインスロウも死なない、というのは3×3EYES」のパイと八雲みたいなもんだと思ってください。

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で、スワンとフェニックスは結婚することになりました。
結婚式はパラダイス劇場で行われ、全米に生中継されます。

この結婚式を阻止するため、スワンの秘密ライブラリに侵入するウインスロウ。
彼はそこで、恐ろしいフィルムを見つけることになります。

ウインスロウが見つけた20年前のフィルムには、今と寸分違わぬ姿のスワンが写っていた。
老いることを嫌って自殺しようとした彼は、その時現れた悪魔(鏡に写った自分自身)と契約し、永遠の命と若さを手に入れたのだった。


そのフィルムには、ウインスロウとスワンの契約や、スワンとフェニックスの契約も記録されていた。
フェニックスは、スワンに声を売り渡したのだった。

そして、スワンの次なる計画も写されていた。
結婚式の最中に、殺し屋にフェニックスを射殺させる。
その模様を全米に中継し、究極のショーを提供するというのだ!

このフィルム、昔の映像が収録されているかと思うと、現在進行形で殺し屋のスタンバイの様子を映し出したりもして、原理がよくわからないシロモノです。

まぁお察しの通り、このフィルムにスワンの命が封じ込められているわけですね。
ウインスロウはこのフィルムに火をつけ、フェニックスを救うためにパラダイス劇場へ向かいます。


パラダイス劇場では、スワンとフェニックスの結婚式が盛大に始まっていました。

神父が「死が2人を別つまで」と言うのを合図として、舞台袖にスタンバった殺し屋がフェニックスを射殺する手筈になっています。

仮面をつけたスワンと、スターの貫禄を身に付けたフェニックスが舞台に登場した。
熱狂する観客の前で、誓いの儀式は始まる。


舞台袖へと走るウインスロウ。


「死が2人を別つまで・・・」銃声。
頭を撃ち抜かれ、倒れる神父。間一髪で間に合ったウインスロウは、天井から下がったロープを掴むと、舞台のスワンへと飛び掛っていく。

スワンの顔を覆う銀の仮面を剥ぎ取ると、その顔面は焼け爛れていた。
命のフィルムが焼けたために、スワンの命も焼け始めたのだ。

「大変、顔をどうしたの・・?」気遣うフェニックスだが、声が出なくなる。
「お前は私に声を売り渡した、忘れたのか!?」

ここまで「オペラ座の怪人」「ファウスト」と来ましたが、さらにここでオスカー・ワイルドの「ドリアン・グレイの肖像」も入ってくるわけです。

ドリアン・グレイの肖像 (新潮文庫)

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ついでに「人魚姫」もですね。
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神父が射殺され、ファントムが乱入したことも演出だと思った観客の熱狂は最高潮に達する。
暴徒化し、舞台になだれ込む観客たち。

混乱のさなか、さらにスワンに斬りつけるウインスロウ。
契約の焼失したスワンの体から流れ出す血。
しかし、スワンの死はウインスロウの死でもある。かつて自ら抉った傷口から噴き出す血。

断末魔の痙攣をするスワンを胴上げする観客。


呆然と立ちすくむフェニックスのもとへ、最期の力を振り絞って這っていくウインスロウ。


マスクが脱げ、潰れた顔が露出したその姿を見たフェニックスは呟く。
「ウインスロウ・・・」スワンの死とともにフェニックスの声も戻ってきた。
同時に、ウインスロウの命も尽きたのだった。

熱狂の中で物語は終わりを迎え、エンディングクレジットとともに超名曲「この世は地獄さ」が流れます。


エンディングのカット割を見るだけでもDVDの値段分以上の価値はありますよ

歌詞がまた素晴らしい。超ネガティブなのになぜか聴いていると元気が出てくるという不思議なものです。以下に、わたしの意訳を載せておきますのでご覧ください。

ただし、自殺を賛美する歌詞なのでうつ病気味の方や悩みのある方はご注意ください

雷鳴轟け、稲妻輝け
日々は長く、夜は恐ろしい
でも構いやしない、どうでもいい


冬が来れば木枯らしが吹く
賢く成長したやつもいるのに
お前はただ歳を取っただけ
何を言っても聞きやしない、どうでもいい


#〜〜〜
何の取りえもないしベッドでもダメ、お前を好きなやつは誰もいないから
死んだ方がマシってモンさ


みんなでお別れを言いに来たんだ
サヨナラ、サヨナラ


挫折とともに生まれ、虚しく死んでいく
お前はどうしようもない破滅と苦痛から逃れられない


死ねば音楽ぐらいは残せる
お前が逝ってしまえば、みんなが喜ぶ
#〜〜〜


もしオレの人生がお前の半分でも下らないものだったら、
とっくに潔く燃え尽きるのを選んでいただろうよ


自分だけを愛し、他人は誰も愛さず
誰かのためにおどけることも、誰かの兄弟になることもなく
どうせみんな孤独に死んでいく
どうでもいいのさ


人生はゲーム
負けることもあれば、騙される時だってある
人生なんて所詮その程度のものなんだ
どうでもいい

#繰り返し


作詞・作曲:ポール・ウイリアム
訳:washburn1975

この曲は、山田花子(漫画家の方)の作品に引用されたこともあり、自殺志願者のアンセムになりました。

隠蔽された障害―マンガ家・山田花子と非言語性LD

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歌詞だけ見ているとネガティヴ過ぎるので、曲の方も聴いておくことをお勧めします。

ファントム・オブ・ザ・パラダイス ― オリジナル・サウンドトラック (紙ジャケット仕様)

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  • アーティスト: サントラ,ポール・ウィリアムス
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル インターナショナル
  • 発売日: 2001/12/05
  • メディア: CD
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ついでにDVDの方ももう一枚リンク貼っておきます。
一枚995円ですよ。買わないやつは死になさい
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