怪獣使いと少年
本日は、「ウルトラ問題作シリーズ第三弾」として、真打ちである「帰ってきたウルトラマン」第33話「怪獣使いと少年」をお届けします。
- 出版社/メーカー: パナソニックデジタルネットワークサーブ/ビクターエンタテインメント
- 発売日: 2003/03/28
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「帰ってきたウルトラマン」には、オリジナル放送の時期から「11月の傑作群」と呼ばれる作品があります。
第31話「悪魔と天使の間に・・・」、第32話「落日の決闘」、第34話「許されざるいのち」、(12月放送になりますが)第35話「残酷!光怪獣プリズ魔」というこれらの作品は今でもマニアの間で語り継がれています。
「帰ってきたウルトラマン」という番組は、放送クールによって番組カラーがかなり異なっています。ウルトラマンの苦悩を描いた第1クール、怪獣とウルトラマンのパワーアップによってテコ入れを図った第2クール、そして、安定期に入って傑作を次々生み出した第3クール。この辺を踏まえて観るとよく理解できますよ。
- 作者: 白石雅彦,荻野友大,西村祐次,円谷プロ=,円谷プロダクション
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2002/12
- メディア: 単行本
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さてさて。
「怪獣使いと少年」は、切通理作先生の処女評論集のタイトルにもなっているので有名なエピソードです。
怪獣使いと少年―ウルトラマンの作家たち 金城哲夫・佐々木守・上原正三・市川森一
- 作者: 切通理作
- 出版社/メーカー: JICC出版局
- 発売日: 1993/06/01
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日本人の心性に潜む残酷さを鋭く描くこのエピソードは、このようなストーリー。
河原の廃屋に住む少年、良。
毎日河原に穴を掘っている彼は、周囲の住民から「宇宙人」と蔑まれていた。
近所の中学生たちに、「お前宇宙人だろ、正体あらわせよ」と虐められる良。しかし、良を虐める少年たちが空中に浮かばせられたり、犬をけしかけたら爆発したりと怪現象が連発する。
この虐めが、首だけ出して生き埋めにして頭から泥水をかけるという実録ヤクザ映画みたいなものすごく陰湿なもの。
- 出版社/メーカー: 東映ビデオ
- 発売日: 2003/06/21
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良を助けたMATの郷秀樹は、彼と同居している謎の老人から話を聞いた。
老人の正体は、観測にやってきたメイツ星人だった。
故郷の北海道から、出稼ぎに出た父を探して東京にやってきた良は、嵐の中、飢えと寒さと恐怖によって死に掛けていたときにメイツ星人に救われたのだった。
メイツ星人は、念動力によって宇宙船を地面に埋め、また、巨大魚怪獣ムルチを封印していた。
中学生を空中浮遊させたり、犬を爆殺したりしたのも彼の力だ。しかし、彼の体は汚染された地球の大気に蝕まれ、もはや母星に帰ろうにも宇宙船を掘り出す力もない。
彼を宇宙へ帰すため、良とともに穴を掘りはじめた郷秀樹。
その姿を、謎の托鉢僧が見つめていた。
メイツ星人が、人間形態のときに名乗っている地球名(というか日本名)は、ご丁寧にも「金山」です。
街の人々は、良が乏しい金を持って買い物に来ても、品物を売ってもくれない。
「宇宙人に売るモノはないよ!うちも、あとでいろいろ言われるのはイヤなんだ。帰っとくれ!」とぼとぼ帰る良を、呼び止めるパン屋の娘。
「同情なんかいらないよ!」
「同情なんかじゃないわ、パンを売るだけよ。うちパン屋だもの。」
パン屋のおばはんの台詞は、いかにも日本人らしい嫌らしさに満ちてますね。
差別するにしても、決して当事者性を引き受けない。
娘の言う、「パン屋だからパンを売る」というのはものすごい正論ですが、それが言い訳のようにしか表れないというのがまたやるせない。
河原で穴を掘る良と郷秀樹のもとに、町の住人たちが暴徒となってやってきた。
「何をやってるんだ、MATが宇宙人を退治しないんなら、俺たちがやる!」
「やめろ、良くんは宇宙人じゃない!」
引きずられていく良。そこに、金山老人が姿を現した。
「やめてくれ、宇宙人はわたしだ!殺すならわたしを殺せ!」
金山のもとに殺到する暴徒。
「やめろ!この人は宇宙に帰りたいだけなんだ!」
郷の言葉も空しく、金山は警察官に射殺される。
射殺された金山老人の体から流れる血が、赤から緑に変わるところは実にやるせない感じです。
暴徒から金山を守れなかった無力さに、ひざまずく郷。
そのとき、地鳴りとともに巨大魚怪獣ムルチが姿を現した。金山が死んだため、封印が解けたのだ。
逃げ惑う暴徒たち。「何やってんだ、あんたMATだろ!早く怪獣をやっつけてくれよ!」
しかし、郷は苦い表情を浮かべて、暴れる怪獣を見つめている。
「勝手なことを言うな、怪獣をおびき出したのはアンタたちだ!まるで、金山さんの怒りが乗り移ったようだ・・・」
そこに、謎の托鉢僧が現れる。
「街が大変なことになっているんだぞ、郷!」
托鉢僧の正体は、MATの伊吹隊長だった。
なんでお坊さんに扮しているのか、何度観てもよく分かりません。
ちなみに、伊吹隊長を演じていた根上淳氏の奥さんが、南国土佐を後にしてウルトラの国にやってきたウルトラの母、ペギー葉山。
コスプレ好き夫婦なんでしょうか。
隊長の励ましを受けて郷はウルトラマンに変身、ムルチと壮絶な死闘を演じてこれを倒す。
街には平和が戻ったが、良は天涯孤独になってしまった。
「おじさんは死んだんじゃないんだ、星に帰ったんだ。ぼくがメイツ星についたら、迎えてくれるんだ・・・」
そう呟きながら、良は穴を掘り続けるのだった。
ウルトラマンの力をもってしても、良を救ってやることはできませんでした。
ウルトラマンにしても、地球人と宇宙人の間でその立ち位置は曖昧なもの。
切通理作さんは、その立場を在日コリアンに例えたこともあります。
異人たちのハリウッド―「民族」というキーワードで映画の見方が変わる! (別冊宝島―映画宝島)
- 出版社/メーカー: JICC出版局
- 発売日: 1991/12
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このエピソードの中で伊吹隊長は、「日本人は、美しい花を作る手を持ちながら、いったんその手に刃を握ると、どんな残忍きわまりない行為をすることか・・・」という台詞を発しています。
この台詞の重さは、自虐史観と責められようとも忘れてはならないものですね。
他民族への不寛容と残虐は、あらゆる民族に共通するものであって日本人も例外ではありません。
ちなみに
このエピソードを、AAによって表現した力作スレが2ちゃんにありましたので貼っておきます。
ぞぬ使いと少年
一見の価値ありです。