ゴールデンウイーク最終日は拳闘の日

今日は八重樫東IBF世界ライトフライ級王座防衛戦と、井上尚弥WBO世界スーパーフライ級王座防衛戦をテレビ観戦いたしました。


その結果はこちら。
http://www.asahi.com/articles/ASJ585RCNJ58UTQP03G.html

井上尚弥八重樫東ともに防衛成功 ボクシングW世界戦

 プロボクシングのダブル世界戦が8日、東京・有明コロシアムであり、世界ボクシング機構(WBO)スーパーフライ級王者の井上尚弥(23)=大橋=は、同級1位のダビド・カルモナ(24)=メキシコ=を3―0の判定で下し、2度目の防衛を果たした。世界戦の連続KO記録は4試合で途切れた。

 国際ボクシング連盟(IBF)ライトフライ級は、王者の八重樫東(33)=大橋=が、同級11位のマルティン・テクアペトラ(26)=メキシコ=を2―1の判定で破り、初防衛に成功した。

 日本ジム所属の男子世界王者は8人のまま。

八重樫は判定結果こそ2−1でしたが、内容は安定していて、ダメージもいつもより小さく、危なげはない試合でした。


それより今回は、井上の実力をすっかり見ることができる貴重な機会でした。


前回、前々回と井上は早いラウンドでノックアウト勝ちしており、ディフェンス面も含め、その技術の全貌を見ることがなかなかできませんでした。何が得意で何が不得意なのか判断するヒマすらない、嵐が吹き荒れるような戦いでしたが、今回は欠点もしっかり見ることができました。


まず、井上は非常にディフェンスがうまい。それも、ガードをがっちり固めるタイプでも、足を使って逃げるタイプでもなく、パンチを見切ってボディワークでかわす、フロイド・メイウェザーJr.タイプの高度なテクニックを使いこなします。メイウェザーが得意としていた、L字ガードの使い方もうまいものでした。それに加えて、相手がパンチを出そうとする機先を制して、体勢を変えてパンチを出させないテクニックもあります。これまで、打たれる局面が少なかったので、ディフェンス面のテクニックは未知数の部分もありましたが、非常に高度な防御技術の持ち主だとわかりました。


ただし、試合中盤から右の強打を出す頻度がガクッと落ちており、また拳を痛めた疑いが濃厚です。パンチ力が強すぎて、右の強打を出せる回数に限りがある、というのが井上の大きな欠点だといえるでしょう。
それから、中間距離での打ち合いでは無類の強さを発揮しますが、頭がくっつくぐらいの至近距離で打ち合うのは、比較的不得手だということもわかりましたね。挑戦者カルモナに先手を取られることもしばしばでした。


とはいえ、それらの欠点を補うためのテクニックも、戦略もしっかり持っています。左のリードブローだけで相手の動きをコントロールして、要所要所であまり強くない右を出すことで主導権を完全に支配することができていました。左だけで間合いをうまく取る、細かい動きでの駆け引きもみごとなものです。最終ラウンドには、温存していた右も駆使してついにダウンを奪っていましたし。WBOはレフェリーストップが遅い傾向があり、もしWBCの試合だったら倒れる前にストップがかかっていたでしょう。でもたらればには意味がないので、ノックアウトを云々するのはやめておきます。ちゃんと自分の欠点も理解していて、それをカバーする戦略もしっかり持っている、ということがわかったので、ますます井上のファンになりましたね、ぼくは。


あと、今日の試合では村田諒太の解説がよかった。やや井上に肩入れしすぎるきらいはありますが、両選手のやろうとしていることを的確に把握し、実況アナウンサーの呼吸にうまく合わせたタイミングで発言ができる。あと発音と滑舌が明瞭で聞き取りやすい。意外とこれができないもので、内藤大助は前置きに必ず「いやぁ〜〜〜」と長く嘆息する癖が直らないし、具志堅用高は真面目な話をしようとするとますます声が上ずって聞き取りにくい。西岡利晃はアナウンサーが話を振らないとしゃべれないうえ「どうでしょうねえ」を多用しすぎるし、浜田剛史は解説内容は完璧だけど独特のなまりが気になりすぎる。
その点、村田は関西弁もそれほど気にならないレベルだし、何をしゃべっているのか全部ちゃんと聞き取れます。勝負どころでは「行けッ!」と感情をあらわにするあたりも、視聴者の気持ちを察知する能力に長けています。内容はもちろん及第点だし、解説者としての力量では、現時点での選手としての実績以上のものを感じましたね。問題は、これから世界タイトルに挑む立場の現役選手だってことなんですけどね。



村田諒太は、6日後の5月14日に香港でプロ第10戦、7月にはアメリカで第11戦が決まっているというハードスケジュールですが、すでにWBA9位・WBC5位・WBO7位・IBF3位とメジャー4団体のひと桁ランカーになっていますから(格上の選手と一度もやってないのになんでこんなにランキングが上がるんだ、というツッコミは誰か他の人に任せたい)、もう世界王者に挑む準備はできているでしょうけど、ちょうど今日はアメリカでWBC王者のサウル“カネロ”アルバレスがアミール・カーンをKOして、暫定王者(ただし実力はこっちが上と目されている)“グレイト”ゲンナディ・ゴロフキンとの試合に前向きな姿勢を見せたところで、村田が所属する帝拳と太いパイプを持つWBC王座に、村田が食い込む隙間は見つかりません。いちばん高位にランクインしているIBFも、そのゴロフキンが持っているし、対戦を実現させるのは困難でしょう。
もしこのまま、世界王者との対戦が実現しなかったとしても、村田はしゃべりも上手いしルックスもいいので、解説者・タレントとしてやっていけそうだな、と思った、今日の中継でありました。