八重樫と「怪物」

昨日の試合で井岡一翔が敗北し、トップ戦線から脱落しました(いちどの敗戦が致命傷になるわけではないが、あの試合内容では再起までそうとう時間がかかる)ので、日本ボクシング界のこれからの展望としては、

  • 井上尚弥(大橋ジム、フジテレビで中継)の快進撃


これらが楽しみなところです。若い井上はまだまだ伸びしろがあるし、村田は実力もスター性も充分(ついでにトークも抜群にうまい)、山中は一撃必殺の「神の左」(スローモーションで見ると、理想的なコークスクリュー・ブローであることがわかる)がますます冴えているので、展望は明るいといっていいでしょう。


そして、もうひとつのビッグな展開が、WBCフライ級王者、八重樫東の次戦です。

岩手県出身の八重樫は、2011年にWBA世界ミニマム級王座を獲得し、2012年にはWBC同級王者だった井岡一翔と統一戦を行いました。
この試合で、八重樫は惜しくも敗れましたが、その勇猛果敢な戦いぶりは内外のボクシングファンから激賞され、その人気は一気にブレイクします。
背が低くリーチも短い八重樫ですが、素早いフットワークと連打で持ち味を発揮しています。


2013年にはWBCフライ級王座を獲得して2階級を制覇し、3度の防衛に成功しています。
初防衛戦ではオスカル・ブランケットの荒っぽい戦い方に苦戦しながらもダウンを奪って判定勝ち、2度目の防衛戦では強豪エドガル・ソーサを相手に素早いヒット・アンド・アウェイで翻弄して完封の判定勝ち。3戦目ではオディロン・サレタをみごとなKOに葬って、王者としての風格を増しました。


その八重樫は、次戦では「怪物」ローマン・ゴンサレスとの対戦が有力視されています。


ローマン・ゴンサレス、通称ロマゴンは、1987年ニカラグア出身、現在は日本の帝拳ジムに所属しているボクサー。2008年に新井田豊をTKOしてWBA世界ミニマム級を、2010年にはフランシスコ・ロサスをKOしてWBA世界ライトフライ級を制覇した2階級王者です。
身長159センチと小柄で、童顔でもあり少年のような印象を受けますが、その強さは他のボクサーとはまったく一線を画しています。


ボクサーの強さにはいろんなタイプがあって、一撃必殺のパンチ力、絶妙のカウンターを撃つ動体視力、目にもとまらぬ連打を可能にするハンドスピード、敵を翻弄するフットワーク、などなどセールスポイントはそれぞれです。


ロマゴンの場合は、一発一発のパンチも重く、多彩な角度から打ち込んでいくテクニックも素晴らしいですが、いちばんすごいのは「出したパンチがほとんど命中する」無類の当て勘の良さです。


まあ、見てやってくださいこの戦いぶりを。

八重樫が苦戦したオスカル・ブランケットとの試合ですが、まったく問題にもしていません。強すぎる!


八重樫がソーサと戦ったときは「7−3でソーサ優勢」と予想し、みごと外れたぼくですが、もし八重樫とロマゴンの試合が実現したら「95−5でロマゴン優勢」と予想せざるを得ません。また外れる可能性もあるけど。


ただ、八重樫は無敗のエリート街道が売りではなく、闘志あふれる敗戦から人気がブレイクしたボクサーですから、「強いボクサーと戦う」ことこそが選手の価値を高める、という大原則を忘れず、ヘンに守勢に回るようなことのない、勇気ある試合を見せてほしいですね。


ちなみに、ゴンサレス井岡一翔ライトフライ級王座を獲得したときにはスーパー王者に格上げされていて、統一戦も計画されたのですが、けっきょく合意には至らずお流れとなったこともあります。
口さがないボクシングファンからは「井岡が逃げた」という声も挙がりましたが、TBSがバックアップする井岡と、日本テレビと太いパイプを持つ帝拳所属のロマゴンとの間ですから、交渉が難航したのも無理はないんですけどね。