信州信濃のそばよりも

山形市上山市の境ちかくにある「そばダイニング でわじ野」へ、両親を連れて、そばを食べに行ってきました。

http://www.soba328.com/dewajino.html


山形の老舗そば店「三津屋」が経営するバイキング形式のお店で、二種類のつゆ(冷たいつゆと、鶏・ごぼう・しいたけ入りの温かいつゆ)、ねぎ・とろろ・大根おろし・山菜・なめこなどのかやく、漬物、おこわ、つきたてのお餅が取り放題。お替り自由のそばは注文してから茹でて、せいろで持ってきてくれます。これで男性は1500円、女性は1000円なのでまぁお得ですね。ぼくはせいろそば五枚とお餅を二皿ほどいただきました。


せいろそば五枚というとけっこうな量のように思いますが、ここは一皿の量を少なめにしてあるので、いろいろな薬味を使って飽きずにたくさん食べられると思います。



というわけで、今日は「プロレスちょっとイイ話」シリーズとして”ミスター林ざるそば二十枚事件”をばお届けします。

力道山の真実 (角川文庫―門茂男のザ・プロレス (6010))

力道山の真実 (角川文庫―門茂男のザ・プロレス (6010))

門茂男氏のこの本に載っているエピソード。


1999年に亡くなった元レスラーで、コミカルなレフェリングでレフェリーとしても活躍した知られたミスター林は、昭和34年に大相撲を廃業して力道山日本プロレスに入門しました。母系家族に育ったという林は力道山を父親のように慕い、マイペースな人柄で愛された人物です。


昭和37年の八月、ある暑い日のこと。


渋谷にあったリキ・スポーツパレスの日プロ事務室で、数人の事務員が仕事をしているところへ、力道山豊登らレスラーたちが入ってきました。


「暑いですネ」


と何気なく言う社員に、力道山は不機嫌な様子で


「夏は暑いに決まってるじゃないか。一生懸命、仕事をしておれば、こんな暑さなんて、目じゃねえ。リングの上はもっと地獄だ」


と返し、座を白けさせます。


そんなところへ、当時は豊登に「林牛之助」とリングネームをつけられていた*1ミスター林が入ってきました。ムッとした力道山や、黙りこくった先輩レスラーたちの様子を見て「これはまずいところへ来た」と思ったであろう林ですが、その空気を変えようとしてか、力道山に向かってこんなことをば言い出します。


「先生、こんなときはざるそばに限りますネ」
この発言には、ミルコならぬ力道山

と思ったことでしょうが、林は構うことなく


「先生、こんなにみんなが顔を揃えているのは珍しい。ざるそばごっつぁんです」

と持ちかけるのです(「○○ごっつぁんです」というのは、角界やマット界で、親方やタニマチにおねだりをするときの決まり文句)。


ですが力道山は、


「わしも、豊登もざるそばなんか食べん。こんな時は、血のしたたるビーフ・ステーキに限る」


とそっけない返事。でも林はあくまで、


「じゃあ先生と豊登さんは食べないとして……みなさん、食べる人は手を挙げてください」


と、仲間を集めてざるそばの注文をばしようとするのでした。しかし、この申し出に同調するものは誰もなく、力道山は大きな声で笑い、


「そうれ見ろ。お前だけじゃあないか食いしん坊は。そんなに食いたければこのわしがオゴってやる。そば屋にすぐ電話をかけろ。なに、一人前では配達してくれないだと。よおし、かまわん。二十、注文しろ」


かくして、三十分ほどすると、二十枚のざるそばが事務所に運ばれてきました。力道山はこの会計をばさーっと小金で払い、


「それ林さんよ、お前さんが食べたい、食べたいと言っていたものが目の前にある。早う食べろ、一つ残さず全部食べるんだぞ」


と、キョトンとしている林に向かって言い放ちます。


「ただお前が食べるのを見ているだけでは詰まらん。お前はいつも十五分一本勝負だろ。十五分で全部食べたら、賞金をハズもう。何、十五分じゃ駄目だと、もう泣きやがるこの男」


力道山はこうして林に十五分二十枚勝負を銘じ、三、四枚目あたりまでは快調に食べていたものの十枚目あたりになると地獄の淵にあった林に、


「全部、残さず食べるんだぞ。一つでも残したら、お前はそば代をわしに返せ。ファイト・マネーからペナルティ一万円と一緒に差っ引いてやる。ここにいる豊登がウィットネス(立会人)だ。わしが見ていたんじゃあ、食うものも食えんだろうからなあ」


と言い残すと室外に出て行ったのでした。


小兵のミスター林は十二枚食べるのがやっとでしたが、

だが、天下の力道山に満座でタカって、約束を守れなかったこの林牛之助が、そば代とペナルティを力道山にムシり取られた話はついぞ聞いていない。

門茂男氏は本稿をばこのような言葉で締めくくっています。この稿のみならず、本書は力道山の周囲に対するツンデレっぷりと、門氏の力道山への屈折したツンデレっぷりが味わえるので、オールド派プオタは必読の書であります。今こそ全集を完全版で刊行するタイミングだと思うなぁ。

*1:豊登は動物系のリングネームを好み、上田馬之助の名付け親も彼であり、大熊元司に「大熊熊五郎」とつけたこともある。でも北沢幹之に「高崎山猿吉」とつけたのはあまりにもあんまりだったと思う