鎖無用のジャンゴ
というわけで、クエンティン・タランティーノがアカデミー脚本賞を取った新作『ジャンゴ 繋がれざる者』を観てきたッス。
オープニングからいきなり、60〜70年代ふうのどぎついクレジット文字がババーンと出て、バックに『続・荒野の用心棒』(原題:『Django』)のテーマが流れるという、いかにもタランティーノらしいオマージュ炸裂演出でした。マカロニ・ウエスタン式の血しぶき描写も盛りだくさんで、味わい深い。タランティーノの映画には必ず元ネタがありますが、今回は主に、リチャード・フライシャーの『マンディンゴ』が下敷きとなっています。
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ただ、タランティーノはこの映画に影響されすぎたのか、本来は「マリ帝国を血を引いた黒人のサラブレッド」を指す「マンディンゴ」という言葉が、『ジャンゴ』の劇中では「格闘用奴隷」を指すように使われていましたね。
日本ではなじみの薄い言葉ですが、「ブラッド・スポーツ」という語があります。
動物を虐待する見世物のことで、イギリスではつながれた牛に犬をけしかける「ブル・バイティング」が古くから行われていました。ブルドッグはこのために改良された犬種です。同じように熊やロバや猿などがドッグ・バイティングの対象とされ、闘犬や闘鶏、日本の闘牛のように同種の動物どうしを闘わせるものもここに含まれます。スペインの闘牛や、大山倍達やウィリー・ウィリアムスが牛や熊と闘ったのもこの範疇といえるでしょう。
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日本では、力士や武道家は尊敬の対象であり、土俵や道場、リングは神聖な場とされます。耳の潰れた人は社会人でも一目おかれます。まあこれはあくまで建前で、最近はどこの業界もいろいろバレてきちゃいましたけどね。でもアメリカでは格闘技選手の社会的地位は高くなく、ランディ・クートゥアも「耳がカリフラワーになっているせいで白い目で見られる」と言っていました。
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ポルトガル語の「ヴァーリ・トゥード」に相当する英語は「ノー・ホールズ・バード」ですが、『マンディンゴ』の劇中でも奴隷の闘いをそう称しています。アメリカでは、一部の州では総合格闘技の興行が禁止されていますが、それも奴隷制時代の悪しき記憶につながりがあるのかもしれません。
映画『ジャンゴ』に話を戻すと、大きな枠組みとしてはタランティーノの前作『イングロリアス・バスターズ』と同じです。
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ただ、前作で卑劣なナチス将校を演じたクリストフ・ヴァルツが、今作では人種差別をしないドイツ人として出てきたあたりは、タランティーノなりのバランス感覚でしょうか。
ジャンゴと、師であるシュルツ医師の関係性はいい味でした。師弟ではあるけど、主従ではない。そこがいいですね。
ただ、スパイク・リーがこの映画に反発しているのも、わかる話ではあります。
ジャンゴは「親切な白人」に買われて自由を得た身で、射撃の名人。悪い白人をばったばったとやっつける、かっちょいいヒーローです。リーがそういう黒人の描き方を嫌うのも、理解できます。スパイク・リーが興味を持つのはジャンゴのように特別な人間より、彼を戸惑いの目で見つめる普通の黒人奴隷たちでしょうから。
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サミュエル・L・ジャクソン演じる黒人執事も、スパイクにとってはカンに触る人物だったろうなあとは思います。
とはいえ、この辺は日本人の観客が気にするべきところではないでしょう。
ちなみに、KKKを思わせる白人の覆面集団が出てきますけど、この映画の舞台は1858年で、KKKが結成されたのは南北戦争後の1865年なので、あれはKKKではありません。誤解のなきよう。
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日本人の感覚で理解しづらかったのが、レオナルド・ディカプリオ演じる奴隷商人とのやり取りです。格闘用奴隷を高額で買いにきた、とディカプーを騙して、ついでにジャンゴの妻を買い戻そうとする(実はこっちが本命)わけですけど、なぜ危険を冒して騙す必要があるのかわかりづらい。
キリスト教社会では結婚は宗教行事であり、黒人に魂の存在を認めていない白人としては奴隷の結婚そのものが認められないんでしょうけど、それにしたってもっと穏健な交渉のしかたがありそうな気がしました。まぁタランティーノの映画に「穏健な交渉」を求めることが間違いなんでしょうけどね。