昨日から続きます。
かつてのアメリカン・プロレス界では、民族ギミックを持つレスラーが多く活躍しておりました。第二次大戦後はフリッツ・フォン・エリック、クルト・フォン・ヘス、キラー・カール・クラップらナチス・ドイツをギミックにしたレスラーが多数活躍し、グレート東郷ら日系人レスラーも、悪役としてブーイングを浴びる存在でした。
悪役レスラーは笑う―「卑劣なジャップ」グレート東郷 (岩波新書 新赤版 (982))
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時代が流れ、第二次大戦の記憶が遠くなると、60年代にはなぜかモンゴル人ギミックのレスラーがブームになります。
1963年に、カナダ人のアーチー・ゴルディというレスラーがカンザスシティに参戦したのですが、ブッカーだったパット・オコーナー(「リングの魔術師」の異名をとった名レスラー)のアイディアにより「モンゴリアン・ストンパー」に改名。ちょうど渡米して武者修行中だったアントニオ猪木とアジア人タッグを組み、大暴れしました。
このギミックをさらに発展させたのが、やはりカナダ人のニュートン・ダッドリー。「ジート・モンゴル」に改名し、弁髪に口髭をはやすという怪しげな東洋人スタイルを確立します。弁髪は満州族の風習であってモンゴルとは関係ないのですが、アメリカ人にモンゴルと満州の区別がつくはずもありません。
ジート・モンゴルは、相棒のヨシップ・ペルゾビッチも「ベポ・モンゴル」という意味不明な名前に改名させ、同じ髪型で「ザ・モンゴルズ」を結成。アメリカ北東部やカナダをテリトリーに大暴れし、WWWWF(WWEの前身)インターナショナル・タッグ王座も獲得します。
1973年にベポが脱退した後は、教師あがりの若手レスラー、ビル・イーディを「ボロ・モンゴル」に改名させて後任に迎えます。「ボロ」という名前はおそらく『燃えよドラゴン』のヤン・スエが演じた役名から取ったのでしょうが、香港人とモンゴル人の区別もついていなかったようです。しかもモンゴル人なのに目が青いという噴飯もののギミックでしたが、このギミックで新日本プロレスに来日し、アントニオ猪木とも戦っています。
しかし1976年にはボロが脱退し、ザ・モンゴルズは解散します。ボロ・モンゴルことビル・イーディは、覆面をかぶって「流星仮面」マスクド・スーパースターに変身し、モンゴルズ時代とは比べものにならないダイナミックなファイトで活躍。新日本プロレスの常連外人レスラーでもありました。
なお、その後のモンゴル人ギミックのレスラーでは、新潟県出身の小沢正志がメキシコへ渡った際にカール・ゴッチのアイディアで「テムジン・モンゴル」を名乗り、アメリカ本土では「キラー・カーン」のリングネームで一世を風靡したのが有名です。
引退後は飲食業を営み、新宿区中井で経営していた「スナックカンちゃん」は生前の尾崎豊が足しげく通ったことで有名でした。2000年には新宿歌舞伎町で「ちゃんこ居酒屋カンちゃん」を開店し、こちらも人気(特に名物の「カンちゃん鍋」がめちゃくちゃうまい)でしたがこの7月に突如閉店を宣言。しかしファンの熱い声援に励まされ、閉店を撤回しています。その事情についてはこちらを参照のこと。
多重ロマンチック:カンちゃん閉店騒動 それは女性客を守るためだった
「カンちゃん」の入っているビルがホストクラブばかりになり、ホストたちによる女性客への悪質な客引きや、エレベーターホールを汚すなどの迷惑行為があったとのことでした。現在の歌舞伎町を象徴するような事件ですね。
一方、モンゴルズの初代メンバーだったベポ・モンゴルことヨシップ・ペルゾビッチは、1974年にフレッド・ブラッシーをマネージャーにつけ、ロシア人で共産主義者ギミックのヒール「ニコライ・ボルコフ」に改名します。日本では当時「ニコリ・ボルコフ」と表記されていましたが本来は「ニコライ」が正しいです。
ペルゾビッチは、実はユーゴスラビア併合後のクロアチア共和国の出身で、カナダへ亡命した過去の持ち主でした。
ユーゴ移民の彼は共産主義を嫌っていたのですが、ブラッシーが「共産主義者がいかに悪者かリングで演じて、アメリカ人に教えてやればいいじゃないか」と説得し、ソ連人ギミックを受け入れたといいます。
ロシア人ギミックのレスラーには、イワン・コロフという先輩がいましたが彼はカナダ人で、民族的ギミックとしてはボルコフのほうが数段味わい深いです。
その後、1990年にペレストロイカが進んで東西冷戦が終結するや、一転して親米派のベビーフェイスになるあたりも、歴史に翻弄された男の生き様として味わい深い。
後に、『キン肉マン』特別編においてウォーズマンの生い立ちが描かれましたが、そこではウォーズマンの本名が「ニコライ・ボルコフ」であることが明らかになっています。
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明日も気力があれば、今度はアラブ人ギミックのレスラーたちについて書いてみようと思います。