園さん、いつものやつ!

園子温監督の新作『ヒミズ』を観てきたッス。

新装版 ヒミズ 上 (KCデラックス ヤングマガジン)

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原作はあんまり覚えてません。古谷実の漫画って正直どれも似たような感じで、どれが『ヒミズ』でどれが『シガテラ』でどれが『わにとかげぎす』だったか思い出せないんですよ。要するに、コミュ障の主人公がいて、ダメ人間が何人か出てきて、押し出しの強いヒロインが主人公とかの童貞を卒業させて、同じ顔した人殺しが出てきてなんやかやするんでしょ?


ただ、『ヒミズ』ではなにかというと主人公の前に単眼の化け物が出てきて、精神を追い詰める(というか、追い詰められた主人公の心理を象徴する描写として化け物が現れる)のですが、映画版では出てきませんでした。


映画の内容は、要するに園子温版『荒川アンダーザブリッジ』みたいなもんです。いや『荒川アンダーザブリッジ』読んだことないけど。たぶんそんな感じ。

荒川アンダー ザ ブリッジ 1 (ヤングガンガンコミックス)

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両親に捨てられ、一人でボートハウスに住む中学三年生の住田。河川敷にはホームレスたちが住み着き、親父の残した借金を取り立てにヤクザがやって来たりする最悪の環境で、しかも制作中に東日本大震災があったので、廃墟のイメージがカットインされたりしてますます破滅的なムードを醸し出しています。死に魅入られた住田を、染谷将太が好演しています。

んで、ホームレスは渡辺哲に諏訪太郎、吹越満神楽坂恵の夫婦、住田に恋する同級生の茶沢(二階堂ふみ)の母親は黒沢あすか、そしてヤクザの親分はでんでん。完全に『冷たい熱帯魚』同窓会といった感じです。

冷たい熱帯魚 [Blu-ray]

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古谷実作品に欠かせない人殺しの悪人は、窪塚洋介。大きな役ではありませんがはまり役です。今後『ヒメアノ〜ル』とかが実写化されるときにも出て欲しいものです。

映画の内容はほとんど語ってない気がしますが、要するにいつもの園子温作品です。女の子が詩を大声で暗誦する場面があって、狂騒的な殺人場面があって、たくさんのロウソクに火を灯す場面があります。『冷たい熱帯魚』が楽しめた人ならこちらも楽しめると思います。ヒロインの二階堂ふみも、個性的な顔立ちと存在感が際立っていていいです。園子温監督は、ヒロインの魅力を引き出すのが意外に上手いんですよね。普通の監督とはかけ離れた手法ではあるけど。今回のヒロインも、殴られ蹴られ、川原を転がされ、川の水に漬けられと狼藉の限りを尽くされていますが、そうしているうちに、魅力的に見えてくるから不思議なものです。

ラストは原作から反転していますが、化け物の存在を省いたのと、主人公の人生にこれからの日本(震災から立ち直ろうとしている)を重ね合わせたためにこうなったのでしょう。個人的には、この映画に震災を重ね合わせる必要はなかったと思うんだけどなぁ。