燃える瞳は原始の炎

あれこれと騒いでいた東京都の青少年健全育成条例ですが、どうやら可決の見通しだとか。


http://www.asahi.com/national/update/1210/TKY201012100115.html

都の性描写漫画規制、可決へ 民主が賛成の方針固める

 過激な性描写のある漫画などを18歳未満に販売できないように規制する、東京都の青少年健全育成条例改正案について、都議会最大会派の民主党は10日の総会で、対応を執行部に一任することを決めた。執行部は賛成する方針。すでに自民、公明両会派は賛成を決めている。民主党を含めると過半数となり、改正案は開会中の都議会で可決される。

 民主党の反対で前回案は6月の都議会で否決となったが、今回の案は規制対象を強姦(ごうかん)などの違法な性行為や近親相姦としたことから、同党は「恣意(しい)的な運用で規制が拡大される恐れはない」と判断した。会派幹部は「我々の主張の多くが盛り込まれており、反対する理由はない」としている。

 一方、漫画家や出版社などは今回の案にも「条文はなお不明確」と反発。18歳以上の登場人物を描いた漫画も規制対象に入るため、「むしろ対象は広げられた」などと批判を強めている。

 前回案は規制の対象を「18歳未満の登場人物の性行為を性的対象として肯定的に描いたもの」などと規定。「条文があいまい」との批判を受けた。今回は年齢要件を外し、法に触れる性行為や近親相姦を「不当に賛美・誇張」して描いた漫画などと定めた。

 該当する作品は、自主的に成人向けコーナーなどで区分販売するよう努力義務が課される。そうした措置が講じられない場合は強制的に18歳未満への販売を禁じるとしている。


あーあ、これで日本の漫画の歴史は20年は遅れるだろうなぁ。


この関係で、猪瀬吹く痴児とか木っ端役人の皆さんは「18歳以上への販売は自由、表現規制ではない(キリッ」とかドヤ顔で言ってますけど、いま、大手出版社では成人指定の漫画はいっさい出していません。いま大手出版社から出ている漫画が、この条例によって成人指定された場合、版元はそれを絶版にしてしまう可能性が非常に高いです。


かつて、1990年ごろにも有害コミック規制運動が盛り上がったことがありました。このときは、それまでメジャー出版社から出ていたソフトコアエロ漫画や、ハードな劇画が槍玉に挙げられて多くの作品が絶版となり、成年コミックマークをつけて別版元から出たりしたものです。


小池一夫せンせいの『マッド☆ブル34』まで、一時は成年漫画になってましたからねぇ。

マッド★ブル34 黄金兵士編 (キングシリーズ 漫画スーパーワイド)

マッド★ブル34 黄金兵士編 (キングシリーズ 漫画スーパーワイド)


今度もそうすればいいじゃないか、と思われる向きもあるかもしれませんけど、成年漫画の市場規模ってかなり小さいんですよ。本屋さんに並ぶこともガクッと少なくなるし、作家にとっては死活問題といってもいいでしょう。そもそも別版元に移行して出版するのだって、そんなにカンタンにできることでもないでしょうし。


この条例には多くの漫画家が反対し、先月には、ちばてつや、やまさき十三、本そういち藤子不二雄Aら大物の先生方が記者会見をしておりました。3月に「非実在青少年」というナンセンスすぎる概念とともに提出されたときには、永井豪ちゃん先生も反対会見をしていたものです。


このとき、豪ちゃん先生は『ハレンチ学園』でPTA団体の抗議を受けたことを振り返っていましたが、今度の条例はキャラクターの年齢ではなく行為の犯罪性を重視しておりますので、豪ちゃん先生にとってはより重大な問題です。


非実在青少年」うんぬんのときは、「キューティーハニーの変身シーンは規制対象にならない」などと笑い話のように扱われていましたが、今回は違法な性行為を「不当に賛美・誇張」したものが対象となります。「不当に賛美・誇張」なんてのは木っ端役人の胸先三寸で決まるわけですから、強姦を描いたものは問答無用で成人指定されると思わなければならないでしょう。


ということは、ですよ。



豪ちゃん先生のキャリア総決算として描かれた、名作バイオレンスジャック』は確実に絶版になるってことですよ!

バイオレンスジャック』は、大地震によって壊滅し、無法地帯となった関東を舞台としています。その世界を支配するのは暴力であり、中盤以降は掲載誌が「少年マガジン」から「漫画ゴラク」に替わったこともあって登場する女性キャラのほとんどがレイプされるという凄まじいバイオレンスの世界が描かれているわけです。


ストーリーに占める性描写の分量、過激さ、ともに条例に触れることは間違いないでしょう。ただ近親相姦はありませんが。しいて言えば「アイアンカイザー篇」が母と子の愛情を描いてはいますけどね。


ただし、『バイオレンスジャック』の舞台は法秩序が崩壊した世界ですので、そこに「刑法に触れる行為」という概念を持ち込むのはどうかと思います。



さらに言えば、『バイオレンスジャック』の舞台となる関東は、『デビルマン』で人類を滅亡させてしまったサタン=飛鳥了が、人類再生の試験場として作り出した想念の世界ですので、ここに法律を持ち込むのはナンセンス極まる行為です。でも天下りの木っ端役人が作る審議会なんぞがそんなところまで理解できるはずがないですからね。
都条例改正問題 12/9都議会 総務委員会レポート - Togetter

小説は読む人によって様々な理解がある。その点、漫画やアニメは誰が見ても読んでも同じで一つの理解しかできない

まぁこの発言をした浅川とかいう役人は、自分の脳を使うという能力を持たないただの条文読み上げBotみたいなもんでしょうから、芸術作品の理解などという高度な思考ができるわけないですけどね。こんな人工無能にはたぶん「一つの理解」もムリでしょう。「小説は様々な理解がある」ってのも、どうせ慎太郎に媚を売ってるだけだろ。



ちなみに、「コミックバンチ」に不定期連載されて未完となり、今年になってやっと単行本が出た『新バイオレンスジャック』という漫画もあります。

新バイオレンスジャック 下 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

新バイオレンスジャック 下 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

ハッキリ言ってむちゃくちゃつまんないんですけど、とにかく表現規制には反対です!