黒き十字架

さて。


ちょっと前に「いんだよ細けぇことは」というエントリを書き、平松伸二と『ブラックエンジェルズ』『ザ・松田』のすごさについて語ったんですが、ここで使った画像に、実はちょっと違和感があったんです。

この画像は、「いんだよ細けぇことは」で検索すると真っ先に出てくる有名なコマなんですが、『マーダーライセンス牙ブラックエンジェルズ』をリアルタイムで読んでいた当時の記憶をたどると、どうもこの絵とこのセリフじゃなかったような気がするんですよね。よく見ると字のフォントも不自然だし、もしかしたらコラじゃないのかなぁコレ。


気になったので、単行本をもいちど買って確認してみました。

マーダーライセンス牙ブラックエンジェルズ』9巻は、前巻から続く”黒き十字架篇”の後篇にあたります。自衛隊員を洗脳してテロ行為に及ばせる組織と戦う牙・雪藤・板垣総理ですが、テロ組織のラスボスで、攻撃してくる相手の運動エネルギーをそのまま跳ね返す超能力の持ち主”ミノタウロ”に苦戦します。
そのとき、彼らの前に、かつて死んだはずの松田が現れ、ミノタウロの超能力をものともせずにお得意の手刀で胸をぶち抜きます。そのときのセリフは

ド外道をブッ殺すのにへ理屈はいらねえ〜〜!!

でした。松田さんにそう言われたらもうグーの音も出ないですよ。
そして、「やはり松田さんですね!」という雪藤に、「おうっ!」

と、再会のあいさつをしたところで9巻おわり。ここでは「いんだよ細けぇことは」とは言っていません。


んで、巻が改まって10巻では、「マシンガンの弾丸を頭にくらったのに、あなたって人は…」と驚く雪藤に、松田さんは

と返します。ここで名セリフ「いんだよ細けぇことは」が誕生するんですね。書き文字の小ネタ扱いで、今になってみるとちょっと意外かもしれません。今後、「いんだよ細けぇことは」を使うときはこの画像にしましょう。


死んだはずの松田を出すのはさすがに作者も思い切ったようで、9巻のカバー折り返しにある作者の言葉では、平松伸二はこう書いています。

 ま・まさか「黒き十字架」の最終章で松田鏡二が蘇ってくるとは……読者はもちろん作者のオレ自身も思ってもみなかったぜチクショー! ブラック・エンジェルズの頃、確かに松田は脳天にマシンガンの弾丸を喰らって死んだ…読者の中にも賛否両論あるだろうが、これでいいのよ! おいらの漫画は理屈じゃねえ〜! 今までちょっと屁理屈をこね過ぎて頭が固くなってたぜ。だがこれからは違う! 松田鏡二の爆発がメインだぜ。文句あるかコノヤロー!

と、こう書いたのがすでに8年前。その後も松田は復活を繰り返し、そのたびに戦い方も性格も大雑把になっていくのでした。


『ブラック・エンジェルズ』に初登場したころは、刑事としての理想と腐敗した上層部とのギャップに悩んだり、刑事だった過去と殺人者である現在とのギャップに悩んだりする、人間的な人だったのになぁ。