現代民話考

今日は、関東大震災から87年を迎えた、防災の日です。この震災については、混乱の中「朝鮮人が井戸に毒を入れる」という流言蜚語を信じた人々が、各地の避難所で朝鮮人狩り(「十月十五日」と言わせる、など)を行ったというエピソードが有名です。

任侠沈没 (2) (ニチブンコミックス)

任侠沈没 (2) (ニチブンコミックス)


などと書き始めると、自分が前に書いたヒット記事に絡めようとするいやらしい意図が出てしまうので、今回はぐっとシフトして、防災グッズのお話。


ぼくが幼稚園のころ、避難訓練といえば、座布団を二つ折りにして頭にかぶる「防災ずきん」が必需品でした。柔らかい布のクッションで作られた頭巾はいかにも頼りなく、これで大丈夫なのかと思ったものですが、いちおうガラスの細かい破片なんかは防御できるので、それなりに普及しているようです。


で、頭巾には「火災から身を守る」という役割もあり、難燃性も大事な要素なのですが、中にはいいかげんな商品も出回っているようで。


http://sankei.jp.msn.com/life/lifestyle/100901/sty1009011731008-n1.htm

看板に偽り?「防災ずきん」に燃えやすい製品

 国民生活センターは1日、災害時に頭部を保護するために小学生らがかぶる「防災ずきん」の一部製品で「燃えにくい」などと表示しながら、火を当てると焼失するケースがあると発表した。

 センターは、3千円以下の16製品をテスト。新品時と5回洗濯した後の2回、バーナーで90秒間火を当てたところ、新品の状態で4製品、洗濯後には新たに2製品で燃え広がって焼失した。いずれも「炎に強く」「難燃ポリエステル使用」などと表示していた。

 センターによると、焼失した6製品は、燃えにくさについて一定の基準を満たすと認定される「防炎製品」ではない。

 センターの担当者は「購入の際は認定品かどうかを目安にしてほしい」と注意を呼び掛けている。

悪意に解釈すると、これで業者から「国民生活センター」(代々の理事長は天下り官僚が務めている)への上納金を確保しようとしているのだろうと思うのですが、とにかくこの実験映像が怖すぎて。

ぎゃぁああああああ。こ、これは怖いよ。夢に見るよ!


大体、日本人にとって「防災頭巾」は戦災の記憶と分かちがたく結びついており、悲しみをはらんだ恐怖を喚起させるアイテムです。

昭和30年7月28日、三重県津市の海岸で、水泳訓練中の中学生がおぼれ、36人の女子生徒が水死するといういたましい事故がありました。


原因は急な潮流の変化とされ、それ以後、海や河川での水泳教育はあまり行われなくなりましたが、この事故には心霊事件としての側面もあります。


海岸でおぼれ、一時は重体となるものの一命を取り留めた女性が、8年後の昭和38年に「防空頭巾をかぶった女の亡霊に、足を引っ張られた」という手記を「女性自身」誌上に発表しました。この日は奇しくも、津市が米軍の空襲を受けてから10周年の忌日でもあり、「火葬しきれない遺体はこの海岸に埋葬された」という証言もあって、「防空頭巾をかぶった女の亡霊」という日本特有のオバケ形態がここに確立しました。


このエピソードは、つのだじろうの漫画『うしろの百太郎』でも紹介されているので、そちらでご存知の方も多いでしょう。

うしろの百太郎 (KCデラックス)

うしろの百太郎 (KCデラックス)


そもそも恐怖アイテムである「防空頭巾」に、「顔のないお地蔵さん」「炎上」という属性をくっつけたのだから、そりゃあ怖いに決まってますよね。



なお、昭和30年の水死事件では、水泳訓練の前に空襲10周年の追悼集会も行われたとのことですので、生徒たちの意識に空襲の犠牲者のことが強く刷り込まれていたであろうことは想像に難くないですね。