ニルーファの涙

アフガニスタンでは、現在もタリバンの残存勢力による拉致や暴行事件が頻発していますが、そんな中でこんなニュースも。


http://www.narinari.com/Nd/20091112599.html

タリバンに拉致されたインド人、食事にふるまった本場のカレーで解放。

28歳のインド人男性ソメン・デブナスさんは、5年前から「世界のエイズの状況を知りたい」(英紙デイリー・テレグラフより)と、自転車で旅を始めた。2020年までに191か国をまわりたいと望むデブナスさんは、これまですでに欧州など33か国を巡っている。そんな彼が事件に巻き込まれたのは10月のこと。今年はじめ、パキスタンからアフガニスタンに入ったデブナスさんは自転車で同国内を移動。そしてヘラートに差しかかかった先月、現地の事情を何も知らなかったデブナスさんは、タリバン兵によって拉致されてしまった。


「突然、ひげを生やしたたくましい10人の男に囲まれて質問されたようだが、言葉が分からずに答えられなかった」(デイリー・テレグラフ紙より)と、デブナスさんは拉致当時の様子を振り返る。荒涼とした場所に連れて行かれ、わずか3メートル四方の地下牢で目隠しされたまま、椅子に縛られたそうだ。食事はわずかな米と牛肉が3日に1回与えられる程度。現地のパシュトゥン語で命令されるものの、言葉の問題で従うことができず、暴行を加えられたという。


毎日死の恐怖を感じていたデブナスさんだったが、ある日一筋の光が射し込む。英語を少し理解できるタリバン兵の存在に気付き、この兵士の話から自分が置かれている状況についても知ることができた。デブナスさんは、この兵士とできるだけ話をするよう心がけ、「世界を旅行している最中で、彼らの目的を邪魔するつもりはない」(英誌ガーディアン・ウィークリーより)と、必死に説明したそうだ。


そんなある日、デブナスさんはタリバン兵から料理を作るよう頼まれる。誤解を解くチャンスだと思ったデブナスさんは、インドならではのカレーを作ることに。羊の肉を牛肉で代用した以外、普段と全く同じものに仕上げたというカレーを出すと、その味に兵士たちは大喜び。英語を話せる兵士を介して「とても幸せな気分になれた。あなたは安全な人に思える」とタリバン兵たちも心を開き、拉致から24日後にデブナスさんを解放した。

絶体絶命のピンチを料理によって乗り切るという、まるで『美味しんぼ』みたいな話です。でもこれ、ちょっと見るとイイ話みたいだけどよく考えるとムチャクチャですよね。兵士の思いつきでなんとなく拘束して、カレーが美味しくて幸せな気分になれたから解放、だなんて軍紀の乱れとかそういうレベルの話じゃないと思います。無法地帯もいいトコじゃないですかそれじゃ。


それにしても、タリバンの人たちは何かにつけてイスラム教の戒律を前面に出して外国を批難しますけど、ヒンズー教徒のインド人に牛肉を食べさせておいて、恩着せがましく解放するというのはひどい話です。



ここで漫画の話をひとつ。


勇午 洞爺湖サミット編(2) (KCデラックス)

勇午 洞爺湖サミット編(2) (KCデラックス)

アフタヌーンからイブニングに移って現在も連載されている漫画『勇午』は、プロの交渉人(ネゴシエーター)である別府勇午が、世界各地の危険地帯で、狂信的なテロリストや冷酷な軍人を相手にタフな交渉を行うという読み応えのある作品です。


また、この作品の見せ場の一つが「拷問」で、主人公の勇午はほぼ毎回いちどは敵に捕まり、

  • 日干しにされたうえ、自分の腕をナイフで切り裂かされる
  • 三日間不眠不休で名前と生年月日を言わされる
  • 甕で塩漬けにされる
  • 無数の釘で板に打ち付けられ、人間標本にされる

などの責めに遭います。でも勇午は毎回この拷問に耐え抜き、敵の喉もとに食いつくきっかけを得るんですね。この特殊能力により、一部では刃牙と並ぶ、漫画界最強のドM」と言われていますが、Mを極めたものはSにも通じるということはみなさんも感覚的に理解できると思います。

勇午 インド編(下) (講談社漫画文庫)

勇午 インド編(下) (講談社漫画文庫)


インド篇において、勇午は、イスラム教徒排斥を叫ぶ狂信的ヒンズー教系カルトと戦う羽目に陥ります。


勇午が身を寄せた村がカルト教団の襲撃を受け、なんとか撃退するのですが、捕まえた敵の捕虜は、拷問にも口を割りません。彼らは輪廻転生を信じているので、殺されることを怖れないんですね。


この相手に、勇午は優しそうに「腹が減ってるだろう」と食事をすすめます。


「特製のビーフカレーだ」という勇午に、味方のインド人も全員ドン引き。牛飼いカーストの人間が牛を食べたら餓鬼道地獄に堕ちる、という脅しにはさすがのカルト信者も屈し、教団の情報をペラペラと喋るのでありました。


今回、タリバンに拘束されたデブナスさんがどのカーストに属しているのかまではわかりませんが、帰国してから「地獄に堕ちる」とか脅されないといいですね。